余命2ヵ月のわたしを愛した死神
"BLENDA"本社を出て、一人になったわたしは、最寄の澄田駅へと向かった。
本当なら、わたしは真っ直ぐ雨城さんの自宅に帰宅するつもりで居たのだが、このまま帰宅してしまうと、また着替えが無い事に気付いた。
わたしはずっと電源をオフにしたままにしていたスマートフォンの電源を入れると、現在の時刻を確認した。
(今のこの時間なら、帰っても弘太郎は居ない···はず。)
帰宅が恐い気もしたが、このまま何もせずに居るわけにもいかない。
わたしは思い切って、澄田駅から電車一本で行ける、元の自宅へ行ってみる事にしたのだった。
帰宅途中の電車内。
乗客はそこそこで、とりあえず椅子に座る事が出来た。
わたしは椅子に座りながら、しばらく見る事を避けていたスマートフォンの着信履歴や未読メッセージを確認した。
着信履歴は、全部で53件。
メッセージもスクロール出来る程の件数のメッセージが溜まっており、そこには弘太郎の言い訳ばかりが並んでいた。
『雫、誤解しないでほしい!あの子は、ただの遊びだから!』
『本命は雫だよ!』
『俺には雫しかいないんだよ!』
『今どこにいるの?帰って来てよ。』
『ずっと待ってるから。』
そんな言葉ばかりが並ぶ弘太郎からのメッセージ。
しかし、どのメッセージもわたしの心には何一つ響かなかった。
弘太郎には、わたしが居ないと困る理由が一つだけあった。
それは『好きだから』とか『結婚を考えていたから』とか、そんな理由ではない。
弘太郎は、わたしの"お金"がないと困るのだ。
正直言ってしまうと、わたしは弘太郎よりも稼ぎが良かった。
弘太郎はすぐに転職してしまう癖があり、収入が不安定な上に今は研修期間中で給料も低い為、生活費のほとんどはわたしが出していたのだ。
そんな弘太郎だが、プライドだけは高く、賃貸の名義は弘太郎になっている。
弘太郎の今の収入で家賃を払いながら生活していけるのかは不明だが、もうそんな事はわたしに関係など無い。
弘太郎への気持ちは全く無く、未練の欠片もないわたしは、弘太郎からのメッセージ履歴を削除し、連絡先も全てブロックした。
澄田駅から20分程電車に揺られ、とある駅で降りたわたしは、駅から徒歩で元の自宅へと向かった。
そこは、5階建てのごく普通のマンション。
まだ家を空けて2日しか経っていないというのに、帰って来るのは物凄く久しぶりに感じた。
わたしは階段を使い2階まで上ると、205号室の扉の前で足を止めた。