余命2ヵ月のわたしを愛した死神
その日は、出社初日という事もあり、午前中は業務というよりも主に業務内容の説明や取引先についてなどの話を聞いた。
わたしの教育係りを担当してくれるのは、見学時に最初に挨拶をした戸田主任だ。
戸田主任は、最初の印象こそ表情があまりなく少し恐かったが、話してみると"単に表情に出づらい人"という事が分かり、わたしの緊張も少しずつ解けていった。
それから、販促課は5人ずつチームに分かれて仕事をしており、わたしは篠原(しのはら)さんという32歳の男性がリーダーを務めるチームに入る事になった。
「どうも、篠原です。宜しくお願いします!」
明るくハキハキと喋る篠原さんは、少し嗄れたハスキーボイスが特徴的な短髪の男性で、その他のチームの方は島屋(しまや)さん、藤枝(ふじえだ)さん、沼田(ぬまた)さんという女性だった。
午後になると、販促物のデザインについての説明と、実際に体験をさせてもらった。
デザインを学んだ事はないし、このような制作をした事はないが、やってみると楽しくて細かいところまでこだわりたくなってしまう自分がいた。
そうこうしている内に、あっという間に定時になってしまい、今日の就業時間は終了となった。
帰りは雨城さんと一緒に帰る事になっていた為、帰る支度をしながら、上の階から雨城さんが来るのを待っていたのだが、その時にわたしに近付いてくる一人の女性がいた。
「あなたが、新人さん?」
そう話し掛けて来たのは、違うチームの『販促課 畑山(はたけやま)』さんという女性だった。
30代前半くらいの胸元が広く開いた洋服にタイトなスカートを穿いた、ボブヘアーで眼鏡をかけた涼しい目元が印象的な女性だ。
「あっ、はい。芽吹です。宜しくお願いします。」
わたしがそう言い一礼すると、畑山さんはその涼やかな瞳でわたしを下から上までを観察しているように見えた。
そして、「あなた、雨城課長の知り合いなの?」と、表情無く低めなトーンでわたしに言った。
「えっと、知り合いといいますか······」
雨城さんを"知り合い"と言っていいものなのか···――――
わたしが答えに迷っていると、そこに「雫さん、お待たせしました。」と雨城さんがやって来た。
すると、今の今まで表情無く低いトーンで話していた畑山さんは、雨城さんが来た瞬間に笑顔を浮かべると「雨城課長、お疲れ様です。」とにこやかに一礼しながら言っていた。
畑山さんのその豹変に驚くわたしは、(あぁ、そういうタイプの人かぁ······)とある事を悟ったのだった。