余命2ヵ月のわたしを愛した死神

「あっ、畑山さん。お疲れ様です。」

誰に対しても丁寧に接する雨城さんは、畑山さんにも穏やかな口調で挨拶をした。

すると畑山さんはまるで胸元を強調するかのように、腕を中央に寄せ「雨城課長、今日このあとお食事ご一緒しませんか?」と誘っていた。

しかし、雨城課長は「あぁ、実はこの後、大事な用事がありまして。申し訳ありません。」と申し訳無さそうに丁寧にお断りしていた。

この後は、一度帰宅してから、賢司さんのお店でわたしの就職祝いをしてくれる事になっている。
それを雨城さんは"大事な用事"と言ってくれた事に、わたしの胸はトクンと小さく跳ね、音を立てた。

「そうでしたか、残念です。じゃあ、またの機会にお願いします。」

そう言い、雨城さんには愛想良く振る舞う畑山さんは「では、お疲れ様でした。」と言うと、クルリと背を向け帰って行った。

そんな畑山さんの様子から(やっぱり、雨城さんに好意があるんだろうなぁ。)と感じ取ったわたしだが、"就職祝い"で畑山さんの邪魔をしてしまった事に申し訳無さは感じなかった。

彼女は今後、何かとわたしに突っ掛かってくるだろう。
そんな気がしたからだ。

「それじゃあ、一度帰宅して、着替えてから賢司さんのお店に行きましょうか。」

そう言う雨城さんの言葉に、わたしは「はい。」と返事をすると、雨城さんと共に退社した。

賢司さんと会うのは数日ぶりだが、何だかもう一ヵ月近く会っていないような感覚だった。
それだけ、この数日がわたしの中で濃く印象深くなっていたのかもしれない。

(賢司さんのご飯、楽しみだなぁ。)

そんな事を考え、楽しみから高鳴る胸を抑えながら、わたしは雨城さんが運転する車で一時帰宅したのだった。


そして帰宅してから、仕事着ではなく滅多に着る事のないワンピースに袖を通したわたしは、メイクも直し、いつでも家を出られるように準備を済ませた。
それから部屋を出てリビングに向かうと、そこには白いシャツに黒のパンツ、黒いジャケットを羽織る雨城さんがソファーに座っていた。

シンプルなのに不思議とお洒落に見えてしまう雨城さんの服装に、わたしはきっと雨城さんには人の目を惹くオーラがあるからだろうと感じた。
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