余命2ヵ月のわたしを愛した死神

「雨城さん。」

わたしがそう声を掛けると、雨城さんはふとこちらを向いた。
そしてわたしの姿を見た雨城さんは「可愛らしいですね。」と言い、優しい微笑みを浮かべた。

「···ありがとうございます。」

雨城さんに"可愛らしい"と言われると、ついついわたしは照れてしまう。
普段なら(どうせお世辞だろうなぁ。)なんて思い、素直に喜べないのだが、雨城さんの言葉には素直に喜んでしまっている自分がいた。

ゆっくりと雨城さんに歩み寄って行くわたしは、雨城さんに「あのぉ、一つお願いがあるんですけど、いいですか?」と尋ねた。
雨城さんはわたしの言葉に「何ですか?」と優しく訊いてくれる。

わたしは少しくすぐったい気持ちを抑えながら「賢司さんのお店に行ったら、また雨城さんの弾く"最後の雨"が聴きたいです。」と言った。

「もちろん、いいですよ。」

そう答えてくれた雨城さんは、ソファーから立ち上がると、壁掛け時計で時刻を確認し「そろそろ行きましょうか。」と言って穏やかな表情を浮かべた。


そして再び車に乗り、賢司さんのお店である"SEVENS BAL"に向かうわたしたち。

駅近のビル内にある"SEVENS BAL"はいつもであれば23時まで営業しているのだが、今日は特別に21時で閉店しており、重厚感がある扉には"Closed"の札が掛かっていた。

その扉を体重を掛けながら開ける雨城さんに続き、わたしも中へと入って行く。

カランカランと鳴る扉の内側に付いているベルが、わたしたちの来店を賢司さんに知らせてくれた。

「あ〜ら!いらっしゃい!待ってたわよ!」

そう言って、わたしたちを迎えてくれた賢司さんは、カウンター内で準備中のようだった。
店内には、料理の良い香りが漂っており、その匂いだけでお腹が空いてきてしまったわたしは、密かにグゥとお腹を鳴らせていた。

「お邪魔します。」
「もう準備終わるから、座って待っててね!」

賢司さんの言葉でカウンター席につく雨城さんとわたしは、前回座った場所と同じ場所に座った。

「賢司さん、わざわざお店を閉めてまでお祝いしてくださるなんて、ありがとうございます。」

わたしがそう言うと、賢司さんは「なぁに言ってんのよ!めでたいんだから、当たり前じゃない!」と言って、にこやかにわたしに向けてピースをして見せた。

「でも本当に良かったわよ!無事に仕事が決まって!慧仁くんのとこなら安心だし!あとはお家だけね!」

そう言いながら準備を進めて行く賢司さんは、雨城さんとわたしの前にお洒落なグラスを置くと、そこに綺麗にシュワシュワと泡を立てるシャンパンを注いだ。

「これノンアルだから大丈夫よ!」

それは車で来ている事を把握している賢司さんの気遣いだ。
そして、賢司さんも小指を立てながらグラスを持つと「さて!乾杯しましょ!」と言い、わたしの就職祝いが始まった。
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