余命2ヵ月のわたしを愛した死神

雨城さんの"最後の雨"を聴いていると、その歌詞の情景が思い浮かんでくる。

「さようなら」と告げて、雨が降る中の恋人たちの別れ。
その恋人たちの切なさを表すような、雨に光り霞がかったように見える街並み。

別れを告げられても、忘れる事が出来ず、残るのは後悔ばかり。
本気で愛していたからこそ流れる涙。
いずれ誰かのものになるのなら、抱き締めて壊してしまいたいと思う程、本気の恋だった。

そんな切ない歌詞の情景を思い浮かばせる、雨城さんが奏でる音色は、やはりわたしの涙を誘った。

雨城さんがピアノを弾き終えると、賢司さんとわたしは涙を潤ませながら拍手を送った。

「ありがとうございました。」

雨城さんは立ち上がり、身体をこちらに向けると、そう言って一礼をした。

「はぁ〜、やっぱり慧仁くんの"最後の雨"は最高ね。」

溜息混じりに賢司さんがそう言った。
そして涙を流すわたしにティッシュを差し出す賢司さんは、「もう雫ちゃんたらっ!」と言って「あははは!」と笑っていた。

「何度聴いても泣けちゃいます。」

わたしがそう言いティッシュを受け取ると、賢司さんは「わかるわぁ〜!」と共感してくれた。

そして、こちらに戻って来た雨城さんに賢司さんとわたしは再び拍手を送る。
雨城さんは少し恥ずかしそうに「ありがとうございます。」と言うと、わたしの隣の椅子に腰を掛けた。

すると、賢司さんが「あら、雫ちゃん。涙でお化粧が崩れてるわよ!」と言い、指で化粧崩れしている箇所を教えてくれた。

「えっ!本当ですか?」

わたしはそう言い立ち上がると、「ちょっと、化粧直して来ますね。」と言い、カウンター横にある化粧室へと向かった。

化粧室に入り、鏡の前に立つわたしは、顔を鏡に近付けながら化粧を直していく。
どうやら、涙でマスカラが落ちてしまったようだ。

黒くなってしまった部分を拭き、ファンデーションも塗り直して、最後にリップを塗っていく。

(よしっ、こんな感じで大丈夫かな?)

鏡を見ながらそう思っていると、カウンターで話している雨城さんと賢司さんの会話が微かに聞こえてきた。

化粧室は、カウンターのすぐ横にある為、微かではあるが声が聞こえてくるのだ。

普段であれば、他のお客さんたちも居るため会話が気になる事はないのだが、今日はわたしたち3人しか居ない為、その声がやけにハッキリと聞こえてくるように感じた。

すると、賢司さんの話し声が聞こえてきた。

「それにしても、あと2ヵ月だなんて······」

切なげな賢司さんの声に(2ヵ月?)とわたしは何気に思った。

「慧仁くん、あの子はまだ29よ?何とかならないのかしら。」

(あの子?29?わたしの事?何の話だろう。)

聞くつもりはなかった雨城さんと賢司さんの会話につい耳を傾けてしまう。
そして、そろそろ化粧室を出ようとした、その時だった。

「余命が2ヵ月だなんて、雫ちゃんが可哀想すぎるわよ。」
< 32 / 105 >

この作品をシェア

pagetop