余命2ヵ月のわたしを愛した死神

一番端のカウンター席に座るわたしは、クルリと後ろを振り向くと、ピアノを奏で続ける男性が醸し出す不思議な魅力に釘付けになっていた。

すると、バスタオルを持った賢司さんが戻って来て、わたしの頭からそのタオルを被せた。
フカフカで肌触りが良いタオルからは、微かにフローラルの香りがした。

「こんなに濡れちゃって、せっかくの美人が台無しよ。」

そう言いながら、力強さの中に優しさを感じる賢司さんの手は、雨を含んだわたしの髪の毛を拭っていく。
それと共に、どこかへ置き去りにして来てしまっていたかのような自分の心が、少しずつ現実へと引き戻されるのを感じ、一気に寒気がわたしを襲ってくると、足先から頭の天辺までが身震いした。

「ほーら、風邪引いちゃう。」

わたしの震えに気付いた賢司さんは、わたしの髪を拭い湿ったタオルとは違う乾いたタオルをわたしの肩に掛けると、小走りでカウンター内に入って行きしゃがみ込んだ。
そして、そこから持って来てくれたのは、カウンター内で足元を温める為に使っていた電気ヒーターだった。

「ちょ〜っと頼りないけど、無いよりはマシでしょ?」

賢司さんはそう言うと、電気ヒーターをわたしの足元に置いてくれた。

「ありがとうございます。」

力無く掠れた声でわたしがそう言うと、賢司さんは優しくと微笑み、「今、コーンスープ持って来るわね。」と言って、カウンター裏へと姿を消して行った。

それから数分待つと、賢司さんは白いカップに入ったコーンスープを運んで来てくれた。
フワッと湯気が立つコーンの粒たっぷりの"SEVENS BAL"のコーンスープは、わたしのお気に入りだ。

「ほら、これ飲んで温まりなさい。」

まるで小さな子ども相手に言うような包容力を感じる賢司さんの言葉は、身も心も冷え切ったわたしを包み込む。
わたしは雨に濡れ体温が奪われた両手でカップを包み込むように持つと、そっと口元へ運んでいき、息を吹き掛けた。

そしてカップに添えられていた真ん丸のスプーンで熱いコーンスープを掬い上げると、わたしはそっと口を付ける。
少量でも熱さを感じる程のコーンスープに口の中が火傷してしまいそうになったが、コーンの程良い甘さが身体へと沁み込んでいくのを感じた。

「美味しい······」

コーンスープの温かさから少しだけ気持ちが解され、わたしがそう呟くと、賢司さんは「当たり前でしょ?愛情たっぷりに作ったんだから!」と言って、綺麗なウインクをした。

賢司さんはカウンター内に入り、カウンターを挟んでわたしの目の前に立つと、近くに居たスタッフに「あたししばらく動けないから、よろしくね?」と伝え、わたしに付きっきりになってくれた。

「少しは落ち着いた?」

首を傾げてそう言う賢司さんに、わたしは「はい、すみません、ご迷惑をおかけして······」と言うと、コーンスープが入ったカップをそっと置いた。

「何も迷惑なんかじゃないわよ。それで、何があったの?話せる?」

自分から話を切り出すのが苦手なわたしを分かってか、涙の理由を引き出そうとしてくれる賢司さん。
わたしは小さく頷くと、ゆっくりと今日あった出来事を賢司さんに話していった。
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