余命2ヵ月のわたしを愛した死神
賢司さんは、真剣な表情でわたしの話に耳を傾けてくれていた。
話している内に感情が込み上げてきて、涙声で言葉に詰まりながらも何とか伝えようとするわたしの話を、聞き取りづらいところがあったにも関わらず、賢司さんは急かす事も遮る事もなく、静かに聞いてくれた。
「もう本当に、会社といい彼氏といい腹立つ奴らね!」
わたしが話し終えたタイミングで、賢司さんは怒りを露わにする。
わたしは自分の事で賢司さんが怒ってくれた姿に、ボロボロだった心が少しだけ救われた気がした。
「雫ちゃん、そんな奴らの為に涙流す事なんて無いわよ!そういう奴らにはね、必ず天罰が下るから!」
そう言って、手に握り締めていた布巾をバシバシとカウンターテーブルにぶつけ、怒りを表す賢司さんの姿に、わたしは何だか笑えてきてしまう。
すると、眉間にシワを寄せていた賢司さんが突然ハッとした表情に変わり、わたしの背後に視線を向けた。
それにつられてわたしも振り向こうとすると、賢太さんが手招きをしながら「あ!慧仁(けいと)くん!ちょっとこっち来て!」と言った。
「どうしたんですか?賢司さん。」
そう言って、こちらに歩み寄って来たのは、先程までグランドピアノで"最後の雨"を奏でていた男性だった。
賢司さんが"慧仁くん"と呼ぶその男性は、わたしが座るカウンター席の隣まで来ると、自然な流れでわたしの隣の椅子に腰を掛けた。
わたしは"慧仁くん"の登場に、慌てて濡れて乱れた髪の毛を手ぐしで整えようとした。
「ねぇ、慧仁くんのとこの会社、今求人募集してない?」
カウンターに手を付き、首を傾げながらそう訊く賢司さんの表情は険しく、問い掛けられた"慧仁くん"は、低くも滑らかな落ち着いた声で「してますけど、何かありました?」と言った。
「この子、あたしの妹みたいなもんなんだけどね、今新しい仕事探してるところなのよ。」
そう言って、賢司さんはカウンターから身を乗り出すと、わたしの肩に手を触れる。
賢司さんがわたしの事を"あたしの妹"と言ってくれた事が嬉しくて、わたしは微かに口角を緩ませた。
「慧仁くんの力で何とかならなぁい?」
「あ、いえ、そんな!申し訳ないです!わたしは大丈夫ですから!」
賢司さんが無理なお願いをしているように見えたわたしは、慌てて止めようとしたのだが、賢司さんは「大丈夫じゃないでしょ!」とわたしを説得するように言って、わたしの肩に置く手に力を込めた。
「慧仁くん、こう見えて"BLENDA(ブレンダ)"の総務課人事課長なのよ?」
「えっ?!"BLENDA"って、あの文具メーカーの"BLENDA"ですか?!」
わたしがそう驚くと、賢司さんは得意気な表情で「そう!凄いでしょ?」と言い、そんな賢司さんを見た"慧仁くん"は「別にそんな凄くないですよ。」と言って控えめに笑っていた。
"BLENDA"とは、日本では誰もが一度は手にした事がある程のボールペンやシャープペンで有名な文具メーカーなのだ。