余命2ヵ月のわたしを愛した死神
「お父様は、お元気になさってるんですか?」
その雨城さんの問いに、わたしは視線を落とすと首を横に振った。
そして静かに「わたしが19の時に事故で。」と答えた。
「すみません、悲しい事を思い出させてしまいましたね。」
「いえ、大丈夫です。」
「···でも、もう一つだけ、お聞きしていいですか?」
申し訳なさそうな表情を浮かべ、雨城さんはわたしにそう訊く。
わたしはそんな雨城さんが気にならないように、出来るだけ明るく「どうぞ。」と返事をした。
「間違っていたら申し訳ないのですが、雫さんのお父様の名前って···芽吹信一(しんいち)さんではないですか?」
雨城さんの口から出る名前にわたしは「えっ······」と驚きを零す。
それは、わたしの父の名前と同じだったからだ。
「どうして、父の名前を?」
「やはりそうでしたか······」
「父をご存知なんですか?」
わたしが前のめりになりながらそう訊くと、雨城さんは言葉を詰まらせた。
しかし、返事を待つ姿勢のわたしに向け、そっと静かに「···はい、知っています」と答えたのだ。
「芽吹信一さんは、僕が担当した方なので·····」
雨城さんのその言葉から、わたしは察した。
要するに父を死へ導いたのが、雨城さんという事だ。
雨城さんは申し訳なさそうにしているが、一方のわたしはどこか安堵し、ホッとしてしまっていた。
わたしはそれだけ、雨城さんに信頼をおいているという証だと思った。
「良かった······」
「えっ?」
「父の担当が、雨城さんで良かったです。」
わたしがそう言うと、雨城さんは狐にでもつままれたように呆然とした表情でわたしを真っ直ぐに見つめていた。
「父は、ちゃんとあちらの世界へ行けましたか?」
父が無事に成仏出来ているのかが気になったわたしは、雨城さんにそう尋ねた。
雨城さんはわたしの問いに「はい。」と短く返事をして、それから「最期まで娘さんの心配をなさっていました。」と答えた。
「父が?わたしを?」
「はい。···あの日は、雨が降っていました。お父様はトラックに乗り、これから帰宅する途中でした。その車内には、"最後の雨"が流れていたんです。僕が"最後の雨"を知ったきっかけは、雫さんのお父様だったんですよ。」
その事実を知り、何と不思議で偶然な繋がりなんだろうと思った。
わたしの父が聴いていた曲を雨城さんが聞いて、それから雨城さんがその曲を弾くようになり、それをわたしが聴いて感動していた···――――
それは偶然ではなく、必然だったのかもしれないと感じた。