余命2ヵ月のわたしを愛した死神
***


わたしは、自分の余命を知ってから、一日一日を大切にするようになった。
しかし、これといって特に何も変わらない日常。

ただ変わったのは、雨城さんがわたしの"期限付き"の恋人になったという事くらいだ。

ぼんやりとしながら見上げる社員食堂の窓から見える空。
今日は機嫌も良く、ゆっくりと流れる雲の間から綺麗な青空が見える。
社員食堂で空がよく見えるこの窓際の席が、わたしのお気に入りの場所となっていた。

わたしは日替わりランチのチキン南蛮定食を食べ終え、カフェラテで一息ついているところだ。

そこへ、「芽吹さんっ。」と声を掛けて来るハスキーボイスが斜め後ろで響き、わたしはクルリと声がした方向を振り向いた。

そこに立っていたのは、片手に珈琲カップを持つチームリーダーの篠原さんだった。
篠原さんはにこやかに「隣いい?」とわたしに尋ねてきた。

「あ、はい。どうぞ。」

ぎこちなくわたしがそう答えると、篠原さんは「じゃあ、失礼します。」と言ってわたしの隣の椅子を引き、そこに腰を下ろした。

篠原さんのチームに入ってから一週間が経つが、チームの人含め、社員の人たちとは業務以外で話した事はなく、まだまだ不慣れな環境ではあった。
元々社交的な方ではないわたしは、自分から話し掛けに行く事が苦手なのだ。

「どう?仕事には慣れてきた?」

柔らかい口調でそう訊いてくれる篠原さんは、チームの中では一番話し掛けやすい存在ではあった。
何かと気に掛けてくれ、わたしが手詰まりになると、いち早く気付いてくれるのが篠原さんなのだ。

「いえ、まだまだ分からない事ばかりで···、でも仕事自体は楽しいです。初めての事ばかりなので新鮮で。」

わたしがそう言うと、篠原さんは優しい笑みを浮かべながら「そっか、楽しいなら良かったよ。」と言って口角を上げた。

「いつも気に掛けてくださって、ありがとうございます。」
「いやいや、そんな事気にしないで。誰でも最初は戸惑うからね。分からない事あっても、自分から声掛けづらいでしょ?みんな忙しそうにしてるとさ。」

まさに図星をつかれ、わたしは笑って誤魔化してしまった。

篠原さんの言う通り、いつも周りの人たちは忙しそうで雑談などする暇もない程、忙しく業務に励んでいる。
そこへわたしが話し掛けて迷惑を掛けたくない思いから、わたしは手詰まりになっても一人でマニュアルとにらめっこをする癖がついていたのだ。
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