余命2ヵ月のわたしを愛した死神
そこから順調に親子丼と味噌汁を作り上げていき、家中に食欲をそそる良い香りが漂い始める。
わたしは、この時間が堪らなく好きだった。
雨城さんとキッチンに並び、他愛もない話をしながら料理をする時間。
その時間が、わたしにとっては生きている喜びを感じられる瞬間となっていたのだ。
今日もわたしは雨城さんと共に出来上がった親子丼と味噌汁をテーブルへと運び、食卓テーブルに向かい合って座り、手を合わせ「戴きます。」と声を揃える。
ただそれだけのごく普通な日常が、残り僅かな時間しか残されていないわたしには、穏やかな心で過ごせる貴重な時間となっていた。
(でもいつか、この時間にも終わりがくるんだよね······)
そんな切ない事を思い浮かべながら、わたしは目の前にある食事を大切にした。
「仕事の方はどうですか?何か不便な事はありませんか?」
味噌汁が入るお椀に手を添えながら雨城さんが言う。
わたしはすすった味噌汁を飲み込んだ後、「有難い事に篠原さんが気に掛けてくださってるので、今のところは何とか大丈夫です。」と答えた。
「そうでしたか、それなら良かった。でも、何か困り事があればすぐに言ってくださいね。」
そう言い、目を細め綻ぶ雨城さんの瞳は優しく、雨城さんは手を添えていたお椀を持ち上げると、そっと口へと運んだ。
困り事···――――
全く無いと言えば嘘になるが、それを雨城さんに伝えていいものかのかを迷ってしまう。
わたしが今一番に思い浮かぶ"困り事"は、畑山さんの事だ。
やはり、最初に感じていた予感は的中しており、畑山さんはわたしを見掛けると何かと嫌味を吐いてから立ち去って行くようになっていた。
しかし、わたしが何かを言い返せる訳もなく、ただただその畑山さんが吐き出して行く刺々しい言葉を聞き流す事しか出来なかったのだ。
(畑山さんの事を話しても、雨城さんを困らせてしまうだけだよね。)
わたしはそう思い、つい零れ落ちてしまいそうになった愚痴を味噌汁と一緒に飲み込むのだった。
それから食後の片付けは雨城さんが担当してくださり、わたしは洗濯機を回した後で湯船にお湯をため始めた。
お風呂が沸き上がる前に乾いた洗濯物を片付けていくのだが、そこでわたしはある重大な事に気付いてしまったのだ。
(あれ?わたしの着替えが······)
実は、私は持っている僅かな2着の部屋着を着回しているのだが、その両方が洗濯物の中から見つからなかったのだ。
そこでわたしは気付いた。
今その両方が洗濯機の中で回っている事を···――――
(あー···やっちゃったぁ······)
どうやらわたしは、今日の着替えを失ってしまったようだ。