余命2ヵ月のわたしを愛した死神
「···お風呂、いただきました。」
お風呂に入り、着替えを済ませたわたしは、恐る恐るリビングへと向かう。
そこには、ソファーに座り本を読む雨城さんの姿があり、雨城さんはわたしの声でふとこちらを向いた。
その瞬間、わたしはまるで氷漬けにでもされてしまったかのように身動きが取れなくなる。
それは、わたしの姿を見た雨城さんの反応があまりにも気になってしまったからだ。
雨城さんの黒いTシャツ一枚の姿のわたしは、雨城さんの反応を見る勇気が持てず、視点が定まらずにモジモジしてしまう。
すると、雨城さんは「おかえりなさい。」と優しい口調で言った後で本を閉じ、その本をテーブルに置くと、スッと立ち上がった。
そして、ゆっくりとわたしの方へ歩み寄って来たと思えば、その勢いのまま腕を広げ、わたしを包み込むようにギュッと抱き締めたのだ。
「···えっ?」
状況が読み込めないわたしは、困惑の言葉を漏らす。
雨城さんはわたしを抱き締めたまま「すみません、つい雫さんが可愛らしくて、抱き締めたくなってしまいました。」と、言ったのだ。
その雨城さんの言動にわたしの鼓動が早くなり、顔が火照っていくのを感じる。
その火照りは、お風呂上がりのせいではない事は、わたし自身がよく分かっていた。
「でも···、恋人同士ですから、問題ないですよね?」
わたしを抱き締めたままそう言う雨城さんに「そう、ですね。」と片言に返事をするわたしの耳は、長身の雨城さんの胸元あたりにあり、耳を澄ませてみると雨城さんの鼓動が聞こえてきた。
その鼓動は、わたしが思ったよりも早く、もしかしたら雨城さんもわたしと同じ気持ちかもしれない、なんて感じてしまった。
すると、雨城さんの腕が緩み、わたしたちの身体が離れる。
雨城さんはわたしの腕を優しく掴むと、穏やかな眼差しでわたしの姿を見下ろしていた。
「僕の服を女性が着ると、こんな感じになるんですね。」
「···変じゃ、ないですか?」
わたしが恐る恐るそう訊くと、雨城さんは口角をクッと上げ「全然、変じゃないですよ。」と答えてくれた。
「むしろ可愛らしいです。たまに、僕の服を着て見せてください。」
「えっ!たまに、ですか?」
「雫さんが抵抗あるなら、無理にとは言いませんよ。」
そうは言われたが、「可愛らしい」と言われ、嬉しかったわたしは「たまになら···」と返答してしまう。
「ありがとうございます。それから···」
雨城さんはそう言うと、再びわたしを包み込んだ。
「ハグって、いいものですね。一日一度は、ハグを習慣にしませんか?」
「習慣、ですか。いいですね。どのタイミングにしますか?」
「お互いにハグがしたくなったら、いつでも。」
そう話しながらわたしを抱き締める雨城さんの背中に、わたしもそっと腕を回すと「分かりました。」と答え、温かい雨城さんの温もりに瞳を閉じるのだった。