余命2ヵ月のわたしを愛した死神
それから、わたしたちの日課に"ハグ"が追加されたわけだが、大体いつも先にハグをするのは雨城さんからだった。
わたしはどうしても恥ずかしさが勝ってしまい、ハグをしたくても躊躇ってしまうのだ。
しかし、どこかで雨城さんからハグをしてくれる、という甘い考えもあり、それを待っている自分もいた。
今までの過去の恋愛で、こんなにも抱き締め合う事に心が満たされる感覚があっただろうか。
過去の恋愛では、いつもわたしがパワーバランスが下で、抱き締めてもらう事よりも、わたしの方が我慢出来ずに寄り添う事の方が多い気がする。
それは甘えたいという気持ちよりも、自分への好意を確かめるような行動に近かったように感じる。
思い返せば、わたしから抱きつく事で相手が嫌がらないか、嫌われていないか、そんな事を試していたように思えた。
その頃の恋愛は、本当に恋愛と呼べるものだったのか···――――
そう思えば、わたしはまともな恋愛をしてきていないような気がした。
そんなある日の休憩時間。
わたしがいつものように窓際の席で日替わりランチのカレーライスを食べていると、背中側から若い女性たちが盛り上がる会話が自然と耳に入って来た。
「雨城課長、今日は仕事のフォローありがとうございました。」
「本当に助かりました!」
話を聞くに、どうやら総務課の事務員さんたちの話し声のようだ。
するとそこへ「いえ、僕は大した事はしていませんよ。」と言う雨城さんの声が聞こえてくる。
後ろを振り返ったわけではない為、人数は定かではないが、どうやら雨城さんと複数の女性社員たちが一緒にお昼休憩を取っているようだ。
「雨城課長って、本当に素敵ですよね。」
「彼女は、いらっしゃるんですか?」
ある女性社員の質問がヤケに耳に響いて聞こえてくる。
――――彼女は、いらっしゃるんですか?
わたしはそこで無意識に後ろへ聞き耳を立ててしまっていた。
雨城さんがその質問にどう答えるのか、気になってしまったのだ。
すると、雨城さんは穏やかな口調でこう答えた。
「いますよ。大切な人が。」
雨城さんの回答に「ですよね〜。」と少し残念がる女性社員たちの声が聞こえてくる。
――――いますよ。大切な人が。
それは、誰を差しているのだろう。
わたしは確かに一応、今は恋人関係にあるが、期間限定付きだ。
それでも、わたしの事を"恋人"と認識して答えてくれたのだろうか。
それとも、違う誰かの事なのだろうか···――――