余命2ヵ月のわたしを愛した死神
雨城さんは、今はただ、恋人を演じてくれているだけ。
それだけなのに、何処かで嫉妬心を抱いている自分がいた。
わたしは、何を嫉妬しているのだろうか。
雨城さんはわたしの我儘に付き合ってくれているだけだ。
それなのに、他の女性にわたしを"恋人"だと話すはずがない。
だとするならば、誰の事なのだろう。
そう考えたら、わたしは雨城さんに失礼なお願いをして、無理に我儘に付き合わせてしまっている事に後悔が湧き上がってきてしまった。
雨城さんは優しい人だ。
きっと、大切に想っている人が居るにも関わらず、わたしの我儘に付き合ってくれているのだ。
(帰ったら、ちゃんと謝らなきゃ。そして···、あの約束を解消しなきゃ。)
わたしは、最期だからと調子に乗り過ぎたのだ。
そんな自分が恥ずかしくて、情けなくて堪らなくなり、スプーンで掬い上げていたカレーライスを口へ運ぶ事も忘れ、喉を通らなくなってしまっていた。
その日の午後は、何だか仕事に集中出来ずにいた。
しかし、新入社員の身でダラダラもしていられない。
ミスだけは避けたいわたしは、入念に確認をしながら、まだ不慣れな業務を進めていた。
(帰ったら、まず雨城さんに謝ろう。)
その事ばかりが、頭の中をグルグルと巡り、業務の妨げとなっていた。
そして、その日の就業時間が終了すると、周りの社員たちは次々と帰宅して行った。
すると、そこへ雨城さんが上の階から下りて来て、わたしを迎えに来てくれた。
「雫さん、お疲れ様です。」
いつもの変わらぬ優しく穏やかな表情でやって来た雨城さんだが、わたしはどうしてもそんな雨城さんの姿を見る事が苦しくなってしまっていた。
「お疲れ様です。」
わたしがそう返すと、雨城さんはすぐにわたしの異変に気付き、「どうかしましたか?」と心配そうに尋ねてきた。
しかし、社内で話すような事では無い為、わたしはその場しのぎで「何でもありませんよ。」と無理に笑みを浮かべて答えた。
それで雨城さんが納得するはずもないが、雨城さんはそれ以上、その場で問い詰めるような事はせず、「そうですか···、それじゃあ、帰りましょうか。」と優しく促してくれた。