余命2ヵ月のわたしを愛した死神
その後の帰宅途中の車内では、帰宅後の夕飯の話をした。
最近はお肉類が続いていた為、鮭のバターソテーにしようという話になった。
「あとは、わたしが野菜たっぷりのコンソメスープを作りますね。」
「はい、お願いします。」
そう話していると、何だか切なくなってきてしまった。
これから帰宅して、どのタイミングで言い出そうか。
もし今のこの関係を解消すれば、雨城さんとのこの生活も無くなってしまう。
せっかく一緒にキッチンに並び、ご飯を作ったり、向かい合って食事する喜びを感じて居たところだったのに···――――
一日一度はハグをしようと決め、雨城さんに包まれる幸せに心が満たされ始めていたところだったのに···――――
わたしが"関係解消"を口にすれば、それも無くなってしまうのだ。
そう思うだけで、わたしは胸の奥底から悲しみが押し寄せ、つい涙となって溢れ出してきてしまいそうになった。
しかし、まだダメだ。泣いちゃダメだ。
わたしは必死にその涙を堪え、潤む瞳を隠す為に窓の外へ視線を向けたのだった。
自宅に到着すると、すぐに夕飯の支度に取り掛かった。
エプロンを身に付け手を洗い、それから冷蔵庫を開け、食材を取り出して行く。
そして、わたしが玉ねぎを切り始めたタイミングで、雨城さんが「雫さん?」と声を掛けてきた。
「はい、何ですか?」
そう言って、わたしがふと雨城さんの方を見ると、雨城さんはわたしの横で手を洗いながら「今日は、何があったんですか?」と尋ねてきた。
雨城さんの問いに、わたしは言葉に詰まる。
今、このタイミングで言うべきだろうか。
でも、どちらにしろ今日中には話さなくてはいけない事だ。
そう思い、わたしは思い切って、"その事"について話す事にした。
「···雨城さん、わたしの我儘に付き合ってくださって、ありがとうございました。」
わたしが手元を見ながら玉ねぎを切りそう言うと、雨城さんは「えっ?」と不思議そうに言った。
「わたし、あと余命が少しだからって、調子に乗っていました。申し訳ありません。雨城さんに···甘え過ぎてしまっていましたよね。」
「···雫さん?突然、どうしたんですか?」
わたしの言葉に困惑している様子の雨城さんは、わたしの横に立ち、手を洗い終えた後、そのままわたしの言葉に耳を傾け続けてくれていた。
「最期くらい、誰かに愛されたいだなんて、馬鹿な発想ですよね。それに、雨城さんを巻き込んでしまって···、わたし、とても反省しました。雨城さんには、大切な人がいる事も考えずに、恋人になって欲しいだなんて···、ごめんなさい···っ―――」
そう話している内にわたしの声は震え、堪えきれずに涙を零してしまっていた。
そんなわたしに雨城さんは、「雫さん、落ち着いてください。」と言い、わたしを後ろから抱き締めた。
しかし、ダメだ。このまま雨城さんに甘えてはいけない。
そう思ったわたしは、平常心を保とうと努力し、自分に言い聞かせるかのように「わたしは、大丈夫ですよ。」と言い、一度玉ねぎを切る手を止めた。