余命2ヵ月のわたしを愛した死神
「それならさ、オリオンカンパニーの担当、芽吹さんがやってみる?」
突然の篠原さんの提案に「えっ!」と、わたしは戸惑った。
出来れば前職場とは関わりを持ちたくない。
担当をする事になれば、打ち合わせで船田さんと顔を合わせる事にもなる。
もう二度と見たいとは思わない憎らしい顔だ。
「こう言っちゃなんだけど、どちらかといえば、うちの会社の方が立場的には上じゃない?うちの商品を扱ってもらっている身ではあるけど、逆に言えば、うちの商品が無いと、あちら側は困るわけだからさ?」
そう言う篠原さんの言葉を聞き、(確かに···)と、納得してしまう。
すると篠原さんは、こう続けた。
「うちからしたら、たくさんある取引先の一つで、正直オリオンカンパニーは中小企業の中でもランクは下の方だし、芽吹さんがもし担当するなら、やりたいようにやっても大丈夫だよ。」
「わたしの、やりたいように······」
「うん。だから、強気でいっても問題ない。オリオンカンパニーをギャフンと言わせるチャンスじゃない?芽吹さんに酷い仕打ちをした事、後悔させてやりなよ。」
篠原さんの言葉でわたしの心にかかっていた靄が見る見る内に薄れていく。
わたしは篠原さんに背中を押してもらい、"オリオンカンパニー"の担当を受け持つ決断をしたのだった。
「やってやれ!芽吹さんの実力を見せ付けてやるんだ!」
心強い篠原さんの言葉に、わたしは「はい!頑張ります!」と拳に力を込めた。
すると、「雫さん。」と控えめにわたしを呼ぶ声が聞こえ、わたしはふと声がした方へ顔を向ける。
そこには、スーツのポケットに手を入れ、片手だけ手を上げる雨城さんの姿があった。
「あ、雨城課長。お疲れ様です!」
雨城さんの姿に元気良く挨拶をする篠原さんと、ゆっくりとこちらへ歩み寄り「お疲れ様。」と穏やかな口調で言う雨城さん。
わたしも雨城さんに向かい「お疲れ様です。」と挨拶をすると、雨城さんは「何だか盛り上がっていたみたいですね。」と言い、目を細めて表情を綻ばせた。
「はい、1社だけ担当を受け持たせていただける事になって。」
わたしがそう言うと、篠原さんはすかさず「芽吹さん、呑み込みも仕事も早いんで、そろそろ1社くらいなら担当持ってもらっても問題ないかなと思いまして!」と言った。
「さすが雫さんですね。」
雨城さんの褒め言葉にわたしが照れて何も言えずにいると、雨城さんは「雫さん、今少しだけお時間よろしいですか?」と訊いた。
わたしは「あ、はい。」と返事をすると、篠原さんの方を向く。
篠原さんは「問題ないですよ。行ってらっしゃい!」と快く承諾してくれ、わたしは「では、少しだけ席を外します。」と告げてから、椅子から立ち上がった。