余命2ヵ月のわたしを愛した死神
雨城さんとの初めての口付けは社内の小休憩所で、それも隣の喫煙室には人が居る状態だった。
胸の鼓動が高鳴り、スリルがある中での口付けに、わたしは恋に落ちた気分になっていた。
いや、気分ではない。
最初はただの恋人ごっこのはずが、わたしは本当に雨城さんに恋に落ちてしまっていた。
それからわたしたちはもう一度だけ短いキスをして、くすぐったい気持ちを抱いたまま各オフィスへと戻ったのだった。
その次の日。
わたしは休日の朝をベッドの上で迎え、まだ寝惚け眼で閉まるカーテンの隙間から漏れている陽射しをぼんやりと眺めていた。
すると寝室のドアが開き、そちらに視線を向けると、開いたドアから既に私服に着替えを済ませている雨城さんが姿を現し、「目が覚めましたか?」と尋ねた。
「はい、今起きたばかりです。今、何時ですか?」
わたしは横向きに体勢を変えると、まだ回り切らない口調で雨城さんにそう訊く。
雨城さんはこちらへゆっくりと歩み寄って来ながら「そろそろ10時になる頃です。」と答えた。
「もう10時になるんですね。寝過ぎてしまいました。」
まだ開き切らない重たい瞼を擦りながら、わたしがそう言うと、雨城さんはわたしのすぐ傍まで来て、ベッドの端に腰を下ろした。
「疲れが溜まってるんですよ。休日なんですから、ゆっくり過ごしてください。」
雨城さんはそう言うと、そっとわたしの額にキスを落とした。
それからわたしの頬に手を添え、わたしを愛おしそうに見つめる。
わたしは自分の頬に添えられた大きくて温かい雨城さんの手に自分の手を重ねると、目を閉じてその温かさをじっくりと感じ取った。
「今日は、家でゆっくりしますか?」
雨城さんの問いにわたしは瞼を開けると、「んー···、」と唸り、それから「今日は天気が良さそうなので、どこかに出掛けたいです。」と答えた。
よく考えてみれば、これまでの休日を雨城さんと一緒にゆっくり過ごした事はなかった。
雨城さんはあまり口には出さないが、普段雨城さんは本来の任務の為に出掛けているのだ。
それだけ、毎日どこかで誰かの命が尽きているという事になる。
雨城さんは、わたしにはそんな素振りを見せる事は無いので、ついつい雨城さんの本来の姿を忘れてしまいそうになる程だ。