余命2ヵ月のわたしを愛した死神

「それじゃあ、今日は出掛けましょうか。」
「いいんですか?」
「雫さんと一緒にデートらしいデートをした事はありませんからね。どこに行きたいですか?」

雨城さんにそう訊かれ、わたしは両手を雨城さんの手に添えながら「そうですね〜。」と考える。
そして、一番最初にふと思い浮かんだ場所があったのだが、まずわたしはその場所は口には出さず、一度飲み込んだ。

それから次に思い浮かんだのは···――――

「水族館に行きたいです。」

わたしはそう言うと、雨城さんを見上げた。

「水族館ですか、いいですね。」
「実は、わたし水族館デートってした事が無いんです。だから、一度は···最期くらいは、行ってみたいんです。」

わたしの言葉に雨城さんは優しく微笑みを浮かべると、「それじゃあ、水族館で決まりですね。」と言った。

そこから、雨城さんに腕を引いてもらいベッドから起き上がったわたしは、その勢いのままどさくさに紛れて雨城さんに抱きついた。

わたしから抱きついていったのは初めてかもしれない。
そのせいか雨城さんは驚いているように感じたが、それでもわたしを優しく受け入れ、抱き締め返してくれた。

そんな些細な事さえ、最近は幸せに感じてしまう。
それは余命があと僅かだと分かっているせいだろうか。

その後、わたしはデート仕様の洋服に着替えた。
上は淡いラベンダー色のサマーニットに、ミモザ柄の白いフレアスカートを穿き、化粧も入念に仕上げた。
最後に華奢でシンプルなピアスをつけ、準備万端だ。

「今日も可愛らしいですね。」

わたしのデート仕様の姿を見て、雨城さんは今日も褒めてくれる。
わたしは素直に「ありがとうございます。」と言うと、雨城さんの方から差し伸べられた手を握り、その手を繋いで自宅を出たのだった。

それから車に乗ってわたしたちが向かったのは、市外にある"アクアパーク水族館"だ。

晴天で休日という事もあり、家族連れやカップルも多く見られた。
その中の一組であるわたしたちは、入口前にある窓口で入場券を購入し、入口を潜り中へと進んで行く。

すると、暗い館内の中に入ってすぐ目の前に、大きく高さもある水槽が現れ、青い光が揺らいでいた。

「わぁ···凄い!綺麗···!」

わたしは、その魅力に溜息混じりの感動の声を漏らしてしまう。

その大きな水槽には、ジンベイザメやエイ、その他にも割と大きめな魚たちが優雅に泳いでいたのだ。

雨城さんの手を引き、惹き込まれるように水槽へ近付いて行くわたしは、水槽のすぐ傍でジンベイザメや魚たちに見惚れるように見上げていた。
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