余命2ヵ月のわたしを愛した死神

「お父さんと話せましたか?」

雨城さんは、優しい口調でわたしにそう問い掛ける。
わたしはその問い掛けに「はい、話せました。」と答えると、「雨城さん、今日はここまで連れて来てくださり、ありがとうございます。」と感謝を述べた。

そして、その帰り道の車内は静かだった。
沈黙は流れていたが、嫌な沈黙ではない。
ただ一緒に居るだけで心地良い、穏やかな沈黙だ。

自宅近辺になると、空はオレンジ色に染まり、時刻は18時を回っていた為、今日は外食をしてから帰宅する事にした。

「雫さんは、何が食べたいですか?」

ハンドルを握り締め、前を向きながら雨城さんが言う。
わたしは少し考えてから、普段二人ではあまり食べない物を食べようと「ラーメンなんかどうですか?」と提案してみた。

すると雨城さんは「そういえば、二人でラーメンを食べた事無かったですね。」と言い、わたしの提案にノッてくれたのだ。

そこで向かったのは、魚介スープが美味しいラーメン屋の"蓮華"だ。

有名なラーメン店から暖簾分けしてオープンした"蓮華"には、一度だけ行った事があるのだが、わたしの中では"美味しかった"記憶が強く残っていたのだ。

"蓮華"は自宅から徒歩で行ける距離にある為、一度自宅の駐車場に車を置いてから、二人で歩いて向かう事にした。

オレンジ色の空が次第に群青色に染まっていき、月光が主張し始める。
わたしはそんな空を見上げながら、この時間帯の短い散歩も悪くないなぁと思った。

お昼時はサラリーマンたちが並び待ち時間がある"蓮華"だが、この時間帯は待ち時間無く店内に入る事が出来た。

「いらっしゃいませ〜!2名様ですか?」

見たところ30代後半くらいのご夫婦で経営されている"蓮華"は、"奥様"の方がホールを担当しており、わたしたちを出迎えてくれる。
雨城さんが「はい、二人です。」と答えると、ホール担当の"奥様"が「では、こちらの席へどうぞ!」と窓際のテーブル席へと案内してくれた。

「ご注文がお決まりになりましたら、お声がけ下さい。」

そう言い、お冷を二人分運んで来てくださる"奥様"は会釈をしてから、まだ片付けられていないカウンター席の片付けをしに向かって行った。

「雫さんは、いつも何ラーメンを食べているんですか?」

メニュー表を手に取りながら、雨城さんが言う。
わたしは雨城さんがメニュー表を開いたタイミングで「わたしは、味噌ですかね。」と答えた。
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