余命2ヵ月のわたしを愛した死神

それから、"いつ見学しに行くか?"についての話になり、わたしはいつでも日程を合わせる事が出来るので、その旨を雨城さんに伝えると、「行動に移すなら、早い方がいいですよね。」と言う雨城さんの判断により、早速明日の13時から見学させてもらえる事になった。

「うちの本社が澄田駅のすぐ傍なんですけど、雫さんのご自宅はどの辺ですか?」

雨城さんからの問いに、わたしはどう答えようか迷う。
なぜなら、今のわたしには帰れる場所がないからだ。

恋人"だった"弘太郎と同棲していたわたしは、浮気現場を目の当たりしたあの家には帰りたくもなければ、帰るつもりもなかった。
わたしは答えに戸惑いカウンターテーブルに視線を落とすと、異常な程に瞬きを繰り返した。

そんなわたしの様子を見た察しの良い賢司さんは、「もしかして、彼と同棲してたの?」と訊く。
わたしが賢司さんの言葉に苦笑いを浮かべながら頷くと、賢司さんは「あら、やだ。大変!」と綺麗なネイルが施された右手の小指を立てながら、口元を手で覆った。

「どうかしたんですか?」

わたしの事情など知る筈もない雨城さんは、賢司さんとわたしを交互に見ながら疑問を問い掛ける。
先程から賢司さんばかりを頼ってしまっているわたしは、あまりにもプライベートな話題を話そうか迷いつつも、自分の口から「実は······」と、帰る場所がない理由を話した。

すると、それを聞いた雨城さんは、「それは帰りたくないですね······」と腕を組み、表情を強張らせた。

「あ、でも、大丈夫です!新居が見つかるまで、その辺のビジネスホテルにでも寝泊まりするので!」

わたしは出来るだけ明るい口調でそう言うと、平然を装った。

しかし賢司さんは、そんなわたしの心情を見抜くかのように「もう、大丈夫じゃないくせに!そんなに無理して明るく振る舞う必要なんてないのよ?」と言い、わたしの肩をバシッと強く叩いた。

「ビジネスホテルだなんて、連泊したら結構お金かかるでしょ!そんなのにお金遣うだなんて勿体ないわ!でも、どうしましょね···、うちに来なさいって言いたいところだけど、うちには純(じゅん)ちゃんがいるし······」

そう言って、賢司さんは考え事をするように顎に手を添える仕草をする。
賢司さんの言う"純ちゃん"とは、同棲をしている賢司さんの恋人の事だ。

「わたしは大丈夫ですよ!何とかなりますから。」
「でもぉ······」

わたしの事を心配する賢司さんが不安気に口角を下げると、そこに雨城さんが「あのぉ······」と言いながら、小さく手を挙げた。

「もし、雫さんがよろしければですけど、うちに泊まりますか?」

そう言う雨城さんの言葉の意味をわたしはすぐに理解出来なかった。
しかし、頭が追い付かずポカンとしているわたしの傍らで、賢司さんは「いいのぉ?!」と大袈裟という程の喜びの反応を見せていた。
< 7 / 105 >

この作品をシェア

pagetop