余命2ヵ月のわたしを愛した死神
「僕は構いませんよ。雫さんが抵抗なければ······」
そう言って、前のめりになる賢司さんに微笑みかける雨城さんの姿にわたしは思考が追いつかないままぼんやりとしていた。
すると、雨城さんに向けていた強い眼差しをわたしの方に向けた賢司さんがパッと花開いたように微笑んだ。
「雫ちゃん、慧仁くんの家に泊めてもらいなさいよ!この男なら、安心して雫ちゃんを任せられるわ!」
賢司さんの言葉に徐々に状況が呑み込めてきたわたしは、ハッとして「えっ?!」と大きな声を上げてしまう。
(雨城さんの家に?!泊めてもらう?!いくら何でも、今日初めて会った男性の家にお邪魔するのは······)
口には出さずに心の中だけでそう思ったはずなのだが、まるでそれを読み取ったかのように「大丈夫よ、雫ちゃん!」と言う賢司さんは、わたしの混乱を宥めるように手を前に出した。
「慧仁くんはね、こう見えて女っ気がない硬派な男なのよ!あまりにも女っ気がないから、もしかしてあたしと同じタイプなのかと疑ったくらいよ!」
「賢司さん、"こう見えて"ってどう見えてるんですか?」
雨城さんはそう言うと「はははっ」と静かに笑った。
それに対し賢司さんは、「慧仁くんみたいないい男は、大体どうしょうもない女たらしだったりするのよぉ〜。」と言い、「あはははは!」と口元を手で隠しながら豪快に笑っていた。
「実はね、あたしと慧仁くんは同じマンションのお隣さんなのよ!でも、女のカゲ一つも感じた事ないわよ!この男、せっかくいい男に生まれてきたのに、仕事ばっかりしてるの!」
「仕事が好きなんですよ。」
「仕事が恋人ってやつぅ?もうやだぁ〜!」
そう言って笑いながら、賢司さんは雨城さんの肩を容赦無くバシバシと叩く。
賢司さんから見て、雨城さんがそう見えているのであれば、本当に信用出来る人なのかもしれない。
疑いと不安の中でもそう思い始める自分がいた。
「だから、雫ちゃん!安心しなさい!あたしも隣に住んでるし、あたしの大事な"妹"に手を出すような男じゃないから!これから引っ越しでお金かかるんだから、そのくらい甘えちゃいなさい!」
そう言う賢司さんの押しに負けたわたしは、「えっと、じゃあ···よろしくお願いします。何から何まですいません。」と賢司さんの勧め通り、雨城さんに甘える事にしてしまった。
雨城さんは、「いえいえ、気にしないでください。」と穏やかな口調で言うと、「それじゃあ、賢司さんの美味しいご飯を食べてから帰りましょうか。」と言って、その場を和ませてくれた。
―――帰りましょうか。
その言葉は何だか温かくて、弱っている今のわたしの心には、あまりにも優しくじんわりと沁み込んでいくのを感じたのだった。