余命2ヵ月のわたしを愛した死神
それからわたしは、"SEVENS BAL"でお腹を満たした後、賢司さんに「ご馳走様でした。」と声を掛けてから店を出て、徒歩で家まで帰る事にした。
すっかり太陽も沈み、見上げる夜空に浮かぶ月灯りがわたしを照らしてくれている。
目を凝らせば微かに見える星は、このくすんだ都会の夜空には貴重な存在のように思えた。
8月の夜風は生温く、汗ばんだ肌を掠めても涼しくは感じず、むしろベタつくように感じる。
この夜空の何処かで今、雨城さんは任務を遂行しているのだろう。
それは、また一つ何処かで命の火が消える事を意味しており、またその為に流す涙もあるという事になる。
それを思うと複雑な気持ちになるが、雨城さんはただ、自分に託された任務を果たそうとしているだけだ。
行き交う人々は、様々な表情を浮かべ、そんな事実がある事も知らずに生きている。
わたしもつい最近までは、その中の一人に過ぎなかったはずなのに、今は何だか雨城さん側の存在な気がした。
広い通りを歩き、先日雨城さんと行った"蓮華"の前を通って、住宅街の方の小道に入ると、すぐに自宅マンションに到着する。
マンション横にある駐車場にふと視線をずらしてみたが、まだそこには雨城さんの車は無かった。
わたしは預かっているカードキーを使い、オートロックを解錠してエントランスを抜けると、エレベーターに乗り7階まで上がって行った。
誰も居ない自宅へ一人で帰宅すると、家の中の静けさがやけに寂しく感じる。
わたしは、その寂しさから(早く寝てしまおう。)と思い、シャワーだけでお風呂を済ませてしまった。
そして、着替えを終えてから寝室に入ると、ベッドの上に雨城さんの黒いTシャツが畳んでおいてある事に気付いた。
(あれ?洗濯物は片付けたと思ってたのに、しまい忘れてたのかな?)
そう思いながら、その雨城さんの黒いTシャツを手に取ると、わたしはある事をふと思い出した。
(あ、このTシャツ······)
その黒いTシャツは、わたしが着替えを全て洗濯してしまった時に雨城さんから借りて着たTシャツだったのだ。
(あの時、雨城さん···可愛らしいって言ってくれたなぁ。また着てほしいって言われてたのに、そういえばあれ以来着てないなぁ······)
わたしはそんな事を思い出し、今着替えたばかりの自分の服を脱ぎ捨てると、雨城さんの黒いTシャツを一枚ペラっと着てしまい、再びワンピース状態となった。
その姿のまま、わたしは寝室の電気を消すと、スタンドライトの照明だけを点けたままにしてベッドへと潜り込んだ。