余命2ヵ月のわたしを愛した死神

わたしは布団の中でTシャツの襟元を摘むと、鼻を近付けた。
すると、微かに雨城さんの匂いを感じ、その匂いで落ち着く自分がいた。

そんな事をしてしまう自分は、おかしいだろうか。

(雨城さん、何時に帰って来るかなぁ。)

そう思いながら、わたしはスマートフォンに手を伸ばす。
スマートフォンの画面に映し出されている時刻は、"21:07"。

帰りは遅くなると言っていた。
きっと、帰宅時間はまだ先だろう。

わたしはスマートフォンのロック画面を解除すると、写真フォルダを開いた。

あまりカメラ機能を使う事が無いわたしが一番最近撮った写真は、雨城さんと行った"アクアパーク水族館"での皇帝ペンギンの写真だ。

(ペンギンのお散歩、可愛かったなぁ。)

わたしはそう思い出しながら、あの日の思い出をもっと写真に残しておけば良かったと、今更ながらに後悔した。

イルカショーも見た、父のお墓参りまでの間のドライブもした、夕飯には雨城さんが初めてのラーメンを食べに行った、そしてハプニングを挟みつつ、賢司さんと純一さんも含めた4人で花火を見た。

色んな事があったはずなのに、わたしはどうして写真に残さなかったのだろう。

しかし、どの瞬間もわたしの記憶には鮮明に焼き付いている。
肉体から離れてしまえば、写真は持って行く事は出来ない。

(わたしの記憶に焼き付けて持って行けば、問題ないか。)

そう自分を納得させ、わたしはスマートフォンを枕元に置いた。

すると、閉めていた寝室のドアが開く音がして、わたしは反射的にドアの方へ視線を向けた。
そこには、息を切らしながら、こちらを見て目を細める優しい表情の雨城さんの姿があった。

わたしは雨城さんの姿にベッドから起き上がると「おかえりなさい。」と言った。
そして雨城さんは、こちらへ歩み寄って来ると、わたしのすぐ傍に腰を下ろし、そのままわたしを抱き寄せ「ただいま帰りました。」と言ったのだ。

わたしは雨城さんの背中に腕を回すと、息が荒い雨城さんの早い鼓動を感じながら「だいぶお疲れみたいですね。」と言った。

「急いで帰って来ましたからね。」
「えっ?」
「早く、雫さんに会いたくて。」

雨城さんはそう言うと、一度腕を緩め、わたしを優しい瞳で見下ろしながら「仕事を終えて、急いで帰って来たんです。少しでも早く雫さんに会いたかったので。」と言った。

(急いで帰って来てくれた?少しでも早く、わたしに会う為に?)

その事が嬉しくて、わたしの頬が自然と綻ぶ。
すると雨城さんが、「あれ?」と言いながら、わたしの服装を気にし始めた。

「これって······」

雨城さんがそう言ったところで、わたしは照れ笑いを浮かべながら「今日もお借りしちゃいました。」と言ったのだ。
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