余命2ヵ月のわたしを愛した死神
わたしは、雨城さんがカフェラテを淹れてくれている間、ソファーに座りながらリビングを見渡した。
もう見慣れたはずのこの風景だが、それもあと一日と僅かになってしまった。
(わたしは明日、この家に帰って来られないんだ······)
そう思うと、心臓をギュッと掴まれるように胸が痛くなった。
「雫さん、カフェラテ淹れましたよ。」
珈琲をまろやかに感じさせるミルクの香りと共に、雨城さんはそう言いながら戻って来る。
そして、カフェラテが入った馴染みの白い珈琲カップをわたしに差し出した。
「ありがとうございます。」
わたしはそれを両手で包むように受け取る。
雨城さんはわたしの隣に戻って来ると、「熱いので、気を付けてくださいね。」と言った。
それからわたしは、珈琲カップの中で渦を巻くカフェラテを眺め、それからそっと口をつける。
すると、いつも飲んでいるはずの雨城さんが淹れてくれるカフェラテの味が、何故か切なく懐かしいように感じてしまった。
「美味しい······」
わたしがそう呟くと、瞳から自然と涙を零れ落ちた。
何故涙が出てくるのか、自分でも分からない。
しかし、そのカフェラテから雨城さんの優しさや愛情を感じずにはいられず、胸が締め付けられたのは確かだった。
そんなわたしを雨城さんは、何も言わずにそっと優しく包み込む。
言葉が無くとも、愛情を感じられる事があるのだと、わたしは身を持って雨城さんに教えてもらったような気がした。
それからカフェラテを飲み終えると、わたしはゆっくりと仕事へ出掛ける準備を始めた。
いつもなら迷いなく決めてしまう服装も、今日は迷ってしまう。
手慣れたはずの化粧も、今日は何故かぎこちなくなっているようだ。
鏡に映る自分のこの姿も、明日でもう終わり···――――
まだ実感が湧くはずも無いが、わたしはふと自分の姿を雨城さんに画像として残しておきたいと思った。
「雨城さん。」
わたしはスマートフォンを握り締めながら、寝室で着替えを終えたばかりの雨城さんに声を掛ける。
そして、「一緒に、写真撮りませんか?」と誘ったのだ。
白いワイシャツにネイビーブルーのサマースーツ姿の雨城さんは穏やかに微笑むと「いいですよ。」と答えてくれ、わたしたちはリビングへと移動した。
そこで写真を撮る為に再び二人並んでソファーに腰を掛ける。
雨城さんはわたしの腰に手を回すと、「僕が撮りますよ。」と言って、わたしに手のひらを向けた。
わたしは「じゃあ、お願いします。」と言うと、雨城さんが差し出す手のひらに自分のスマートフォンを乗せた。
そしてカメラアプリを起動した雨城さんは、内カメラをわたしたちに向けた。
そこに映し出された、寄り添うわたしたちの姿が切なくて···――――
それでもわたしは、笑顔を遺す為に必死に微笑んだ。
「それでは、撮りますよ。はい、ちーず。」
シャッター音と共にそこに映し出された雨城さんとわたしは、微笑みながら寄り添い合い、わたしはカメラに向けて控えめにピースを見せていた。