余命2ヵ月のわたしを愛した死神

お昼休憩の時間になると、わたしは社員食堂へやってきた。
そして、日替わりランチの鯖の味噌煮定食を持ち、お気に入りの窓際の席へとつく。

今日の空は、青空に薄い雲が流れており、近隣に生える緑が揺れていて、少し風が強いようだ。

すると、わたしが割り箸を持ち、割ったタイミングで少し遠くの方から響かせるようにコツコツ鳴らすヒールの音が聞こえてきて、その音は次第こちらへと近付いて来るのをわたしは背中が感じ取っていた。

「あーら、芽吹さん。今日も優雅にランチタイム?」

背中から聞こえてくる、聞き覚えのある刺々しい声。
しかし、普段なら不快に感じるその声も、何だか今日は不快にすら感じなかった。

わたしが反応せずに鯖の味噌煮を食べ始めると、その声の主は、わたしの隣の椅子を引き、座り始めた。
そこでやっとわたしが横を向き、その声の主に目を向けると、予想はしていたが、その声の主はやはり畑山さんだった。

畑山さんは今日も胸元を強調させるようなピタッとボディーラインが出る洋服にタイトなミニスカートを穿いていた。

「お疲れ様です。」

わたしが普通にそう挨拶をすると、その反応が畑山さんの心を逆撫でしてしまったのか、畑山さんは不機嫌そうな表情を浮かべた。

「お疲れ様です、じゃないわよ。何で新人のあんたが、そんなに優雅にランチをしてるわけ?わたしが新入社員だった時はね、休憩なんて取らずに必死に仕事してたものよ!」
「きちんと休憩を取るのは、午後も仕事を頑張る為ですよ。」
「はぁ···、これだから今の若い子は······」
「わたし、そんなに若くもないですよ?今年で30になりますから。」

わたしはそう言って、話しの流れから自然と出た言葉から自分が"30歳"を迎えられない事実を自分で突きつけてしまった。

(そうだ···、わたしはまだ29。30歳には、なれないんだ······)

そう思いながら箸を止めるわたしに、横で何か不満をずっと話している畑山さんだったが、その嫌味さえもわたしの耳には入って来なかった。

すると、そこへ「あ、畑山さん!また新人イビリですか?」という明るい声が聞こえてきた。
その声で我に返ったわたしがふと振り向くと、そこにはわたしと同じ日替わりランチが乗るオボンを持った篠原さんの姿があった。

「はぁ?新人イビリ?!」

篠原さんに向けて、苛立ちをぶつける畑山さんは、眉間にシワを寄せて篠原さんを睨みつける。
篠原さんは平然としながら、畑山さんとは逆のわたしの隣の椅子に腰を落ち着かせると「畑山さん、そんなに眉間にシワ寄せたら、痕が残っちゃいますよ?もうそんなに若くないんですから!」と、今日も笑顔で恐ろしい事を言い始めた。

そんな篠原さんの言葉に、畑山さんは悔しそうな表情を浮かべながら言葉を詰まらせ、慌てて眉間を両手で隠していた。
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