余命2ヵ月のわたしを愛した死神

「んーーっ···、もう!!!」

そう言って、何も言い返さずに椅子から立ち上がった畑山さんは、再びコツコツとヒールの音を鳴らせながら、立ち去って行った。

(畑山さんって、いつも篠原さんに言い返さないんだよね。いや、言い返せないのかな?)

そんな事を思いながら、わたしは畑山さんの立ち去る後ろ姿を見送った後で篠原さんの方に顔を向けると、「ありがとうございます。」と、篠原さんにお礼を言った。

「えっ?何がぁ?俺は思った事、言っただけだよー。」

そう言って微笑む篠原さんは、箸を持ち「戴きます!」と手を合わせると「今日も日替わりランチ、美味そうだね!」と言った。

「はい、鯖の味噌煮美味しいですよ。」
「そういえば鯖の味噌煮、芽吹さんは作れるの?」
「まぁ、一応は······」
「へぇ〜!いいなぁ、雨城課長は幸せ者だ!」
「あ、でも、大体いつも一緒にご飯は作りますし、雨城さんの方がメイン料理を作る率は高いです。」

わたしが何気なく自分の日常を話すと、篠原さんはニヤッと悪戯な笑みを浮かべながら、わたしを横目で見た。

「ほう、惚気てくれるねぇ〜。」
「えっ!あ、いや、そんなつもりは!」
「いや、今のは立派な惚気だよ?」

篠原さんの言葉にわたしはタジタジになりながら言い訳をしようとしたが、篠原さんは笑いながら、わたしをからかう事をやめなかった。
しかし、篠原さんのそんなからかいも嫌な気はせず、わたしは笑って誤魔化したのだった。

午後になると再び業務に戻り、普段通りの時間が流れていく。
そして就業時間が終わり、帰る支度をしていると上の階から雨城さんが下りて来るのが見えた。

すると、篠原さんはわたしの傍までやって来て、「ほら、王子が迎えに来たよ。」と小声で言ってから「じゃあ、お疲れ!」と笑顔で先に退勤して行った。

そんな篠原さんの様子を見ていた雨城さんは、不思議そうに篠原さんの後ろ姿を眺めた後、わたしの元へ来て「何か言われてませんでした?」と尋ねた。

「あぁー···、王子が迎えに来たよって、言われました。」

少し照れながらわたしがそう言うと、雨城さんは「王子?」と何の事だか分からない様子で首を傾げていた。
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