余命2ヵ月のわたしを愛した死神

ハンバーグを夕飯の食卓に並べるのは初めてではないが、わたしが雨城さんに作ったのは初めてだ。
わたしは自分が食べ始める前に、雨城さんの反応が気になり、サラダから手を付けた。

雨城さんは一番初めに、わたしが作ったハンバーグに箸をつけた。
ハンバーグに箸を入れると、その部分から溢れ出す肉汁。
それを見て、雨城さんは「おぉ~、肉汁凄いですね。」と何だか嬉しそうだった。

それから一口サイズにして、ハンバーグを口へと運ぶ。
その瞬間、雨城さんの瞳が微かに見開くのをわたしは見逃さなかった。

「···美味しいっ。僕の作るハンバーグとは全然違いますね。」
「本当ですか?美味しいなら良かったぁ!」

雨城さんからの感想を聞けて、わたしも心置き無く夕食が始められる。
しかし、この雨城さんと向かい合って食べる夕飯も今日で終わり···――――

明日は帰宅途中で···―――と話を聞いている為、明日の夕食時にはわたしは既に肉体から離れている事になる。

そう思うと、味が分からなくなりそうだったので、わたしはその事を今だけでも忘れようと、必死にかき消そうとした。

夕食が終わると、片付けをしてくれる雨城さんと、洗濯機を回しながら乾いた洗濯物を畳んでいくわたしは、いつもの風景だ。

それからお風呂を沸かすと、今日は雨城さんと二人で湯船に浸かった。
雨城さんを背中に感じながら、乳白色のにごり湯に浸かるわたしは、温泉の香りの入浴剤にリラックスし、目を閉じる。

そこに、わたしの身体を包み込む雨城さんの腕がキツくなり、わたしを後ろからギュッと抱き締めた。
わたしはその腕に自分の腕を重ね、ふと右側に顔を向けた。

そこには切ない表情を浮かべる雨城さんの顔が見え、雨城さんはこちらに視線をズラすと、切ない瞳にわたしを映した。

会話は無いが、わたしたちは同じ気持ちのように感じた。
すると、雨城さんの手が伸びてきて、その瞬間に湯船の水面が揺れ、浴室に水音が響く。

雨城さんの綺麗な手がわたしの頬を包み、親指でわたしの唇をなぞった。

わたしはそんな雨城さんの手に自分の手を重ね、それから雨城さんの手首を掴んだ。

「もっと、触ってください。わたしの事を、忘れないように。」

わたしが静かにそう囁くと、雨城さんは切なさの中に微笑みを浮かべ、そっと顔寄せた。
そして、そのままわたしの唇に口付けをして、ふっと離れたと思うと、鼻先が触れる距離でわたしを見つめ「続きは、あとでにしておきます。」と言い、その言葉からわたしが以前キスで逆上せてしまったあの日の事を思い出し、わたしたちは額を付けて笑い合った。
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