余命2ヵ月のわたしを愛した死神
お風呂から上がると、雨城さんはいつものようにTシャツにスウェット姿で、わたしは雨城さんのTシャツを借りてペラっとワンピース状態となった。
それから雨城さんはリビングでドライヤーを使い、わたしのセミロングの髪の毛を乾かしてくれる。
わたしはこの髪の毛を乾かしてもらう時間が好きだった。
何故か分からないが、雨城さんに髪を触れられると、心が癒されていくのだ。
ある程度髪が乾いてくると、雨城さんはドライヤーのスイッチを切り、ドライヤーを置いた。
そしてわたしの手を取り、手を握りしめると、そのままわたしの手を引き歩き始める。
雨城さんがわたしを連れて向かった場所は、わたしが雨城さんの家に来たばかりの頃に使わせてもらっていた、あのアップライトピアノが置いてある部屋だった。
雨城さんはその部屋のドアを開けると、電気を点け、わたしの手を引いたままアップライトピアノへと近付いて行く。
それから少し横長の椅子を引き、そこにわたしを座らせ、その隣に自分自身も腰を下ろした。
「では、雫さんへ。以前、リクエストを頂いていたので、弾かせていただきます。」
雨城さんはそう言うと、鍵盤蓋を開け、鍵盤に手を添えた。
「"最後の雨"です。」
そう言って、一つ深呼吸をした雨城さんは気持ちを落ち着かせ、自分自身を集中させると、鍵盤に添えていたその長く綺麗な指で、"最後の雨"を前奏から弾き始めた。
アレンジを入れず、シンプルにオリジナルのままで弾く雨城さんのピアノ演奏。
それが心地良くすんなりと耳に入ってきて、切ない曲調が心を震わせる。
わたしはその雨城さんの歌うような演奏を聴きながら、最初に雨城さんに出会った時の事を思い出した。
あの時は、わたしにとって心を砕かれるような衝撃の連続の後で、身も心もボロボロだった。
そんな中で無意識に行き着いた賢司さんのお店"SEVENS BAL"で雨城さんは、この"最後の雨"を弾いていた。
初めて雨城さんの"最後の雨"を耳にしたあの瞬間、わたしの心は自然と惹きつけられた。奪われたと言っても過言ではない。
それから賢司さんの紹介で雨城さんと挨拶をしたけれど、初対面の時のわたしの姿ときたら、かなり悲惨なものだった。
雨でずぶ濡れ状態で髪の毛も化粧も乱れ、とてもではないが人に見せるべき姿ではなかった。
それでも雨城さんはわたしに優しく接してくれ、賢司さんの後押しもあり、雨城さんのこの家にお世話になる事になり、仕事まで紹介してもらえる事になって、あの時のわたしからすれば地獄から神様が手を差し伸べてくれたような感覚だった。