余命2ヵ月のわたしを愛した死神
しかし、無事に就職が決まって安心出来たのも束の間だった。
わたしの就職祝いの為に"SEVENS BAL"を訪れていた時、偶然にも雨城さんと賢司さんの"あの話"を聞いてしまったのだ。
最初に"余命2ヵ月"と"死神"というワードを聞いた時は、何が何だかよく分からない状態で、すぐには理解する事が出来なかった。
そんな戸惑うわたしに雨城さんは、丁寧に説明してくれた。
その時だ···―――わたしが雨城さんに"我儘"を言ったのは···――――
今となっては、あの時の"我儘"が良かったのかどうか、わたし自身には分からない。
ただ、あの時は···―――嘘でも、誰かに愛されてみたかった。
それだけのはずだったのに、わたしは本当に雨城さんを愛し始めてしまった。
きっと、雨城さんも今のわたしと同じ気持ちのはず、だと思いたい。
しかし、それは今となっては、雨城さんには残酷な事をしてしまったのでは無いかと思ってしまう。
それにわたしも···―――雨城さんを愛してしまった為に離れ難く、目の前に迫る別れが悲しくて、寂しくて、辛くて堪らなかった。
わたしは、雨城さんを忘れない。忘れたくない。
けれど、雨城さんは···―――いつか、わたしの事なんて忘れてしまうだろうか。
忘れて欲しくない。
でも···―――いつか、また違う誰かを愛する時がくるかもしれない。
その方が雨城さんにとっては幸せな事だ。
わたしの事をずっと引きずり、寂しい思いをしながら生きていって欲しいとは思わない。
ただ、たまに、わたしを思い出してくれるだけで···―――ただ、それだけで充分だ。
そう思いながら、わたしはずっと雨城さんが弾く"最後の雨"を聴いていた。
気付けば、わたしの瞳からは涙が次々と溢れ出し、頬を伝っていた。
雨城さんが"最後の雨"を弾き終え、最後の音が長く伸び、ゆっくりと消えていくと、雨城さんは鍵盤から手を離した。
そしてわたしは、涙を流しながら雨城さんに拍手を贈る。
雨城さんは、ふとわたしの方を向き、わたしがすすり泣いている姿を見ると、ふわりと優しく抱き締めてくれた。
「雫さん······」
「雨城さんっ······」
雨城さんはわたしを抱き締める腕を緩めると、すぐ傍でわたしを切なげに見下ろし、顔の角度を変えて、わたしが合わせる隙も与えず唇を重ねてきた。
そのキスは、わたしの涙の味がして、強い独占欲を感じるような深いキスだった。