余命2ヵ月のわたしを愛した死神
そして、最期の出社をする途中の車内で、わたしは雨城さんの名を呼んだ。
雨城さんは、チラッと横目でわたしを見ながら、落ち着いた様子で「はい。」と返事をした。
「伝えておきたい事があって······、こんなタイミングで申し訳ないんですけど。」
わたしがそう言うと、雨城さんは穏やかな口調で「大丈夫ですよ。」と言った。
「雨城さん、短い期間でしたけど、わたしの恋人になってくださり、本当にありがとうございました。雨城さんのお陰でわたしは、とっても幸せな時間を過ごす事が出来ました。」
――――幸せ···
その言葉を口に出した瞬間、わたしの鼻の奥がツンとして、今にも涙が溢れ出しそうになったが、わたしは必死にそれを堪らえた。
「わたしの最期の人が、雨城さんで良かったと心から思っています。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。それから···――――」
わたしはそう言った後、その先に言おうとした言葉を一瞬躊躇ってしまった。
しかし、言おうと決めた以上、ここでやめる訳にはいかない。
もう時間は残り僅か···――――
今、この瞬間を逃してしまえば、伝えられずに終わってしまうかもしれないのだから。
「···わたしが居なくなったら、雨城さんは気にせず、新しい恋愛をしてください。また誰かを愛して、愛してもらってください。」
その言葉を伝える事が、わたしの中で一番辛い事だったが、わたしは何とか涙を流す事無く、雨城さんに伝える事が出来た。
しかし、わたしの言葉を聞いた雨城さんは、少しの沈黙の後でこう告げた。
「僕は···、雫さん以外の人を愛する事は無いと思います。雫さんに気を使っているとか、我慢とか、そういう事ではなくて···、雫さん以外の人を愛する事が出来ないんです。雫さんじゃないと、ダメなんです。」
真っ直ぐ前を見据えながら、雨城さんはそう言う。
そんな雨城さんの言葉に、必死に堪らえていたはずの涙がどっと流れ落ち始めてしまった。
(あぁ···、これから仕事だっていうのに、化粧が崩れちゃう。)
そう思いながらも、雨城さんの言葉は叫び出したい程嬉しくて、わたしはそれを隠す為にわざと窓の外に視線を逃した。
「雫さんからの愛情以外、いらないです。」
呟くようにそう言う雨城さんの声は温かくて、更にわたしの涙を誘うのだった。