余命2ヵ月のわたしを愛した死神

まだ外は明るいが、茜色の空の奥には夜が出待ちをするように微かに姿を現している。
今のわたしの心とは矛盾するような綺麗な夕焼けの下、わたしは5センチヒールが擦り減る程の勢いで息を切らしながら走り続けた。

そして辿り着いたのは···――――

「賢司さんっ!!!」

重厚感がある扉を押し開いて、わたしは叫んだ。
そう、わたしが向かっていた場所は、賢司さんのお店である"SEVENS BAL"だったのだ。

ピアノ音のジャズが流れる中、たくさんの来客で賑わう店内にわたしの声が響く。
"何事?"とでもいうかのような表情がたくさんわたしに向けられたが、わたしはそれを恥じるどころではなかった。

カウンター内で急かせかと忙しそうに働いていた賢司さんは、わたしに気付くと、顔色を変えてわたしのところへと駆け寄って来た。

「雫ちゃん···!」
「賢司さん!雨城さん来てませんか?!」

そう言いながら、わたしは店内を探そうとしたが、賢司さんは何やら意味深に「雫ちゃん、ちょっとこっち来てちょうだい。」と言い、わたしの背中を押しながら、店外へと出た。

店内の音はほとんど聞こえない静かなビルの廊下。
わたしは賢司さんを見つめながら、息を切らしていた。

「雫ちゃん···、落ち着いて聞いてね?」

賢司さんはそう言い、わたしの両腕を掴むと、低い声で「慧仁くんはね···、掟を破ったわ。」と静かに告げた。

「えっ···掟を、破った?」
「さっき、慧仁くんがうちの店に来たのよ。そしたら"掟を破った"って言ってたわ。今日は突然の団体客で忙しくてね、あたしもあまり話を聞いてあげられなかったんだけど···、これ、雫ちゃんにって。」

切なく険しい表情を浮かべる賢司さんがそう言い、わたしに差し出したものは、二つに折られた手紙のようなものだった。

わたしはそれに視線を落とすと、何も言わずにそれをそっと受け取った。

「雫ちゃん、お店が終わったらすぐに行くから、おうちで待っててくれない?ねっ?」

取り乱すわたしを宥めるように賢司さんはそう言い、わたしはその言葉に静かに頷く。
賢司さんは「ごめんなさいね、じゃあ戻るわね。」と言うと、わたしの腕を優しく擦ってから、賑わう店内へと戻って行った。
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