余命2ヵ月のわたしを愛した死神
わたしは寂しさのあまり、家の中で雨城さんの面影を探した。
雨城さんが使っていた黒い珈琲メーカー。
雨城さんと二人並んで料理したキッチン。
それから食卓テーブルにつくと、いつも向かい側に座る、雨城さんの姿が見えるような気がした。
夕食の後は、たまに二人でお風呂にも入った。
わたしは今朝まで雨城さんが着ていたTシャツを洗濯籠の中から引っ張りだし、そこに涙塗れの顔を埋めた。
(···雨城さんの匂いがする。)
わたしはそのTシャツを抱き締めながら、浴室のドアを開けた。
毎日、お風呂の後に雨城さんが掃除してくれていた綺麗な浴槽には、後ろから雨城さんに抱き締められる自分の姿が思い浮かぶ。
ここでキスをして、逆上せてしまったのも良い思い出だ。
そして、わたしは次にあの部屋へと向かった。
お世話になったソファーベッドと、わたしの大好きな"最後の雨"が聴ける、アップライトピアノが置いてある洋室。
しかし、もうあの"わたしの大好き"な···―――"最後の雨"はもう聴くことが出来なくなってしまった。
わたしは、昨日二人で並んで座った横長の椅子を引くと、そこに腰を下ろし、そっと鍵盤蓋を開いた。
(昨日、ここで···聴いたばかりのはずなのに、それも遠い昔のような気がする···。あれは、夢だったのかな······)
そんな事を思いながら、わたしは鍵盤に手を触れた。
雨城さんの綺麗な指が奏でていたピアノの鍵盤···――――
そこには、何故か雨城さんの温もりを感じた。
すると、家のインターホンが鳴った。
(あっ···、賢司さんかな。)
そう思い、椅子から立ち上がったわたしは、雨城さんのTシャツを抱き締めたまま玄関へ向かう。
そしてドアノブに手を掛け、扉を開けた先には、急いで駆け付けてくれたのか、息を切らし肩で呼吸をする賢司さんの姿があった。
「雫ちゃん······」
賢司さんは泣き腫らしたわたしの姿を見ると、ギュッとわたしを抱き締めた。
わたしがあまりにも酷い顔をしていたせいだろう。
賢司さんはわたしを抱き締めながら、わたしの頭を撫で、声を殺しながら泣いていた。
それから賢司さんには家に入ってもらい、リビングのソファーに座りながら、雨城さんからの手紙を読んでもらった。
その手紙を読んだ賢司さんは、「もう、本っ当に···慧仁くんは···っ······」と言葉に力を込めながら呟いた。