ヒミツを知るのは私だけ!?
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「いってらっしゃい!」
今日から、私のお父さんとお母さんが海外へ行く。
私は空港には行けないから、玄関外でお見送り。
タクシーに乗ったお父さんは心配そうに、お母さんは少し泣きながら、手を振ってくれた。窓から顔を出して、見えなくなるまで。
画面越しでは顔は見れても会うことは出来ないから、私もめいっぱい手を振った。
「……行っちゃった」
泣きそうだったのけど、なんとかこらえらるた。
お父さんの海外転勤が決まったのは少し前のこと。
話を聞いた時は驚いたけど、それだけお父さんがすごいことをしているんだと、さびしさよりもほこらしさが勝った。
私のことがあるからと、最初はお母さんは日本に残ると言っていた。
けれど、お父さんは仕事に集中しすぎるあまり、自分の身の回りのことがおろそかになるところがあるから、専業主婦のお母さんは迷った末に、お父さんと行くことにしたんだ。
だから、しばらくの間この家には私、ひとり。身の回りことはすべて自分でこなさなきゃいけなくなる。
でも、五分ほど歩けばおばあちゃんのお家があるから、何か困ればすぐに行ける。だから大丈夫だよ、と私は言ったんだけど……ギリギリまでお父さんたちは頭を悩ませていた。
一人になるのは仕方ないにしても、体調管理にはちゃんとした料理と、セキュリティ面が大事だって。
だけどもう、中二だもの。お母さんの手伝いだって、普段からしてた。
だから、掃除も洗濯だって、料理だって、こなして見せる。
──むかえた翌朝。
両側から鳴る二つの目覚ましの音で、目を覚ました。
「……ん」
手探りでどちらの時計もとめて、なんとかまぶたをもちあげる。
時計を見れば、いつもより三十分も早い。
なんで?──あぁ……そうだった。
今日から、家にひとりだから……起きなきゃ。
制服に着替えて、髪を結って。……朝ごはんとお弁当の準備をしないと。三十分なんてあっという間に過ぎてしまう。
『そろそろ起きないとだめよ?』って優しく起こしてくれる声も、先に家を出るお父さんのあわただしい足音も、今日からしばらくないのだと、静かなリビングを見て思った。
少しさびしさを感じるけど、学校に行かないと。
かばんの中は……教科書オッケー、お弁当だってバッチリ。
洗濯物は……外にない。今日は風強いみたいだし干しっぱにしてられないから。
「あとは、学校に行くだけだね。……じゃあ行ってきます」
お弁当は昨日お母さんが初日だからと詰めやすいようにしてくれていたから楽だったけど、明日からはもう少し早めに起きたほうが時間に追われなくてすむかも。
そう思いながら、歩いているとふとあることを思い出した。
……宿題のプリント、入れたっけ?
ファイルに入れた記憶がなくて、一度かばんを確認することにした。
「あれ?……ない」
そんなぁ……こわい先生だから、忘れたら確実に怒られちゃうっ。
どこかに入ってることを信じて、地面にかばんを置いてあさってみれば、
「あった!」
教科書とノートの間にはさまってた。……ちょっとぐちゃっとなってるけど。
今のうちにきれいにしておかないと──
「っあ!!」
ただでさえ風が強いのに、より強い風がふいていったせいで、手からプリントがはなれてしまった。
「待って……!」
あいたままのかばんを持って、急いで追いかけるも、風にあちらこちらと運ばれていくプリント。
しかも学校とは逆方向に。
お願いだから、どこかにひっかかったり、落ちたりしてくれないかなっ、木とか川とか以外で……!
これじゃ、初日からバタバタじゃない!
学校から遠のく心配をしながらも、無我夢中で追いかけてきた結果、やっとプリントが地面についた。
「はぁ、よか……っ!?」
安心して顔を上げた時、どういう状況かさっぱり分からなかった。
夢中で追いかけすぎたのか、いつの間にか高架下の駐車場まで来ていたみたいで。
でも、問題はそこではないの。
私がど真ん中に来てしまったのかもしれないけど、黒いパーカーのフードをかぶったは人たちが私を見下ろす形でいて……一瞬で血の気が引いていくのが感じた。
こわばった手の中で、プリントがぐしゃっと音を立てる。
「……あ?だれだ?総長同士の間に入るとはいい度胸──」
「ご、ごめんなさい!!」
私史上最速で逃げるように走った──
またも夢中で走って角を曲がった矢先、誰かにぶつかりそうになり、ギリギリでたえれば、しゃがみ込んでいたのはまたも黒いパーカー姿の子。
「……あ、ごめんね。邪魔しちゃって」
「い、いえ……って」
か、顔……というか口から血が出てない……!?具合悪くてしゃがんでたってこと?
「だ、大丈夫ですか!?」
「え……?」
「これ、よかったら使ってください」
「あ、ありがとう」
少しシワになってるハンカチを差し出せば、口をおさえなかまらも笑って受け取ってくれた。
「えっと、それじゃ私はこれで!お大事に!」
これ以上時間をロスするわけにはいかない。
ハンカチは別にもらわれても構わないから、学校に急がなきゃ。
**
「はぁ……」
なんだかすごく疲れた。家までの道のりが長く感じる。
朝から中々の距離を走ったせいもあるけれど……いくら夢中でプリントを追いかけてたからって、あんなに怖そうな人たちの中に入るなんて……。
それに、学校で女の子たちが話してるのを聞いてしまった。
『ねぇ、どっかの駐車場に黒い集団がいたって聞いた?』
『なんだっけ、チーム名に干支が入ってるとかっていう?』
『そうそう!どこのチームも総長の顔はわれてないって』
『あーなんか聞いたことある!でも駐車場って、喧嘩だったのかな』
総長同士って、私に声をかけてきた男の子も言ってた。
や、やっぱり総長同士の喧嘩に入ってしまったのかな……。
後から、邪魔したなお前。的なことはない、よね?一応謝ってから走ったんだし。
「着いたぁ。ただいまー。お母さ……って、いけないいけない。……今は海外だってば」
帰ってきてすぐ、ただいまってキッチンにいるお母さんのもとへ行ってから、部屋に行くのが私の当たり前。
つい、海外だとまだ実感がわいてないからか、声をかけてしまった。
だから自分に言い聞かせるように、つぶやく。
「えっと……部屋で着替えてから、掃除っ掃除!」
気合いをいれるようにほっぺたを叩いて、いざ!
お弁当箱を洗ったり、洗濯したり。
やっぱり朝はバタバタしちゃって、掃除機なんてかける余裕はなかったから、かけないと。
外で仕事をすることも立派で大変なことだけど、専業主婦のお母さんもすごい。
毎日のように朝ごはんもお弁当も作って、洗濯物をたたんで掃除機をかけて、洗い物をして。
私やお父さんより早起きして、起こしてくれて。
ゴミ出しも、すでに分別してまとめてとじてあるものを『行く時にお願いね』って渡してくれる。一度だって、ゴミ袋の結びがとれたこともない。
お父さんのネクタイが曲がっていたら正してくれて、私の忘れ物にいち早く気付いてくれる。
それが当たり前のように毎日過ごしてたけど、
同じように自分がやらなきゃいけない状況におかれて……すごくありがたいことなんだって改めて感じた。
「外ではお父さん、家ではお母さんがすごいってことだ、うちは」
さびしい。さびしいけど、弱音ははかないようにしよう。
二人に心配かけないくらい、ちゃんとやってるよ、って言えるように。
ぎゅっとエプロンをきつめにしばれば、インターホンが鳴った。
「ん?なんか届くっけ?」
のぞいてみなきゃ。
……男の子?どうして家に?しかも見たことない子だし。
疑問に思っていればまた鳴らされた。
とりあえず出てみよう!
「は、はーい……っとと」
「早く開けろ」
少しだけ開けて顔を出したのにがっちり押さえられちゃった……!
「えっと、どちらさまで?」
「まず上げろ」
「え?え、ちょっと!?」
大きめなバッグを手に中へ入る男の子。
閉めようとするも……
「僕もおじゃましまーすっ」
え?また!?
っていうより、僕?と目を疑いたくなるくらい髪が長く美人な子も入ってきた。
「あ、開けときなよ。まだ来ると思うからさ」
どういうこと?全く状況が理解できない。
なのに男の子たちは何かを知ってるみたいだし。
勝手にドアストッパーをされ、中へ入っていく男の子たちを追いかければ、すでにリビングでくつろいでいた。
ど、どういうことなのこの状況は──
急いでお父さんたちに聞こうとスマホを見ると、すでにメッセージが入っていた。
【やっぱり花耶のことが心配なので、知り合いに頼んで色々出来る子たちをそろえてもらったよ】
お、お父さん!?
知り合いって誰?色々ってなに!?
「ここか?じゃまするわ」
また来た!
そしてまた廊下からの足音に汗をにじませれば、私を見るなり男の子の手からバッグがすべり落ちた。
え?
「女神だ……」
え?め、女神?って、あれこの子……。
「きしょくわりーな」
一番最初に来た男の子がソファに座りながら言えば、私を女神だと言った男の子は首を振った。
「そんなことない!ハンカチを貸してくれて……どうしたら返せるか悩んでいたら……!!運命ってこういうことを言うんだ!」
ハンカチ……そうだ。この子朝にハンカチを貸した……というかあげたパーカーの子だ。
「おい、うぜーアホがまじってんぞ。つまみ出すか?」
「いや……ほっとくのが一番だろ」
「え、待ってよ!」
「ねぇ、僕、五人って聞いてたけど四人しか来てないんじゃない?」
「……ここにおるよ」
わっ!?と私たちの声が重なった。
「い、いつ入って……」
思わず引きつる顔のままたずねると首をかしげられた。
「この子と一緒に入ってきたんじゃが」
と、ハンカチの子を指さした。
「おれと?というか、じゃがってなんか、おじいちゃん感ある話し方だね」
「きっすいのおじいちゃん子なんでな。話し方がうつってしまったんじゃよ」
「へぇ、いいことだね!」
「……まぁいい。お前が水瀬花耶だろ。俺らはお前のおもりをしにきてやった。俺は若月氷雨。中二」
最初に来たのは氷雨くん……深い紺色の瞳にくせっ毛の黒髪、マスク。
皆、今は学ランだけど、誰も顔見知りではない雰囲気……。
というより、お、おもりって……。
「はいはーい僕、美容担当。恋本美嵐だよ。中一ね」
び、美容?
胸元くらいまで伸びたピンク髪に、同じくピンクのぱっちりおめめ。
確かに、この見た目で言われると納得いくような。
「おれは……温崎壱心君のそばにいる担当かな。いった!!」
「バカ言ってんじゃねーよ」
「おれは真面目だよ!?」
氷雨くんに頭を叩かれながらも、壱心くんはめげていない。
「俺は財前湊。中二。一応、よろしく」
「ぼくは白岡一颯。同じく中二じゃ。よろしくしておくれ」
なんのくせもないきれいなえんじ色の髪に水色の目。湊くん、おしゃれ……。
一颯くんは全体的に白い。目も髪も肌も。
はかない感じだけどこの中では大人しそう。
──ちゃんと話を聞くに、氷雨くんは料理担当、一颯くんと壱心くんは掃除担当、湊くんはやりくり担当で来てくれた、らしい。
私に言わず呼んでいたことに驚いたけど、大丈夫です、とは言えないし……同い年の子たちが多いからうまくやっていけたら、と思いたいところ。
「えっと……改めて水瀬花耶です。よろしくお願いし──」
って、あれ……?
壱心くんはハンカチの件で程よく顔が見えていたから記憶は確かだけど、
私が駐車場で見上げた顔をよく思い出せば、ひとりひとりがあの場にいたパーカーの子たちだ。
壱心くんは同じような格好だっただけかもしれないけど、もしかしたらこの五人……
女の子たちが話してた顔がわれてない、っていう総長だったりする──!?


