ベッドの隣は、昨日と違う人
32話 あっという間の2時間
そのタイミングで、店員が近づいてきた。
「お待たせしました」
大地の皿は、生クリームがもりもりと盛られ、チョコソースとバナナがこれでもかと乗っている。
「……うわっ」
「おおー、これが食べたかったんだよ」
一口食べて、満足そうに頷く大地を見て、みいなは思わず笑った。
「高校のときの大地が見たら、びっくりするね」
「言うな。俺も思ってる」
フォークを動かしながら、大地がぽつりと言う。
「結婚式の2次会に着てくスーツ選んで、パンケーキ食って……なんか変だよな」
「変、だけど……なんかいいよ」
「……かな」
短い返事だったけど、その声は柔らかかった。
みいなは自分の皿に視線を落としながら、胸の奥が静かに落ち着いていくのを感じていた。
さっきまであった、変な緊張がない。
(なんでだろ)
大地といると、余計なことを考えなくていい。
気を遣いすぎなくていい。
フォークを置いて、みいなは小さく息を吐いた。
目の前の皿には、もう半分ほどになったパンケーキ。
大地は、チョコとバナナが山みたいに乗った皿をまだ勢いよく攻略している。
アイスコーヒーを一口飲んでから、ふと手を止めた。
「……あのさ、みいな」
フォークを置いたまま、大地が視線を上げる。
「さっきの話だけどさ。
断ったら冷たくなるっていうのは……」
言葉を選んでいるのが、間の取り方でわかった。
みいなは、カフェラテを両手で包む。
「うん」
「それ、多分だけど……最初から“それ”しか考えてない相手だと思う」
ストレートだけど、声は静かだった。
責める感じも、説教っぽさもない。
「……うん。わかってる」
みいなは、視線を落としたまま言った。
「美咲にも言われたし、わたしも……そうだと思った」
パンケーキの断面を、フォークでつつく。
「断った途端、態度変わるのってさ。
優しくしてた理由が、"それ"だけだったってことだもんね」
大地は、少しだけ眉を寄せた。
「それを、みいなが謝る必要はないからな」
「……うん」
そう答えたけど、喉の奥が少し詰まる。
「……あれから連絡もないしね」
カフェラテを両手で包みながら、少しだけ自嘲気味に笑う。
「元々、土日は一切連絡ない人だけど」
その笑い方が、どこか無理してるのを大地は見逃さない。
大地は何も言わずに水を一口飲んだ。
(それ、本命いるだろ……)
喉まで出かかった言葉を、そのまま飲み込む。
「でも、もういいの」
みいなが、静かに言った。
「わたしも……好きかって言われたら……だったし」
大地は、少しだけ間を置いて頷いた。
「そっか」
それ以上、深掘りはしなかった。
その距離感が、逆にありがたかった。
大地は残りのパンケーキを平らげながら、ぽつっと言う。
「みいなはさ、ちゃんと考え始めてると思うよ」
「……そうかな」
「うん。流されっぱなしだったら、今日ここでそんな話、してないだろ」
みいなは、少しだけ口元を緩めた。
(……大地って、こういうとこなんだよな)
押さない。
決めつけない。
でも、ちゃんと見てる。
カフェのざわめきの中で、
みいなはカフェラテを一口飲みながら、静かに思った。
(……この人の前だと、ちゃんと呼吸できる)
「……今日……スーツさ、みいなが選んでくれたの正解だったと思う」
突然、大地が言う。
「……ほんと?」
「ああ。俺、自分じゃ分かんねぇし」
そう言って、照れ隠しみたいに頭を掻いた。
「だからさ」
少し間を置いて、続ける。
「当日も、隣いてくれたら助かる」
「……うん」
即答だった。
その返事をした瞬間、みいなは気づく。
迷いがなかった。
それが、今までと一番違うところだった。
そのとき、ふと壁の時計が目に入った。
(……もう2時間経つ)
大地といると、本当にあっという間だ。
「ね、スーツ、取りに行く?」
みいながそう言うと、大地ははっとして笑った。
「おお、そうだな」
ふたりは席を立つ。
レジで支払いを済ませるみいなの横で、大地がぴしっと姿勢を正した。
「ごちそうさまでしたっ」
そう言って、パンっと音を鳴らしながら手を合わせて深く頭を下げる。
「ちょっと……」
みいなが思わず笑うと、店員さんもくすっと小さく笑っていた。
そのタイミングで、店員が近づいてきた。
「お待たせしました」
大地の皿は、生クリームがもりもりと盛られ、チョコソースとバナナがこれでもかと乗っている。
「……うわっ」
「おおー、これが食べたかったんだよ」
一口食べて、満足そうに頷く大地を見て、みいなは思わず笑った。
「高校のときの大地が見たら、びっくりするね」
「言うな。俺も思ってる」
フォークを動かしながら、大地がぽつりと言う。
「結婚式の2次会に着てくスーツ選んで、パンケーキ食って……なんか変だよな」
「変、だけど……なんかいいよ」
「……かな」
短い返事だったけど、その声は柔らかかった。
みいなは自分の皿に視線を落としながら、胸の奥が静かに落ち着いていくのを感じていた。
さっきまであった、変な緊張がない。
(なんでだろ)
大地といると、余計なことを考えなくていい。
気を遣いすぎなくていい。
フォークを置いて、みいなは小さく息を吐いた。
目の前の皿には、もう半分ほどになったパンケーキ。
大地は、チョコとバナナが山みたいに乗った皿をまだ勢いよく攻略している。
アイスコーヒーを一口飲んでから、ふと手を止めた。
「……あのさ、みいな」
フォークを置いたまま、大地が視線を上げる。
「さっきの話だけどさ。
断ったら冷たくなるっていうのは……」
言葉を選んでいるのが、間の取り方でわかった。
みいなは、カフェラテを両手で包む。
「うん」
「それ、多分だけど……最初から“それ”しか考えてない相手だと思う」
ストレートだけど、声は静かだった。
責める感じも、説教っぽさもない。
「……うん。わかってる」
みいなは、視線を落としたまま言った。
「美咲にも言われたし、わたしも……そうだと思った」
パンケーキの断面を、フォークでつつく。
「断った途端、態度変わるのってさ。
優しくしてた理由が、"それ"だけだったってことだもんね」
大地は、少しだけ眉を寄せた。
「それを、みいなが謝る必要はないからな」
「……うん」
そう答えたけど、喉の奥が少し詰まる。
「……あれから連絡もないしね」
カフェラテを両手で包みながら、少しだけ自嘲気味に笑う。
「元々、土日は一切連絡ない人だけど」
その笑い方が、どこか無理してるのを大地は見逃さない。
大地は何も言わずに水を一口飲んだ。
(それ、本命いるだろ……)
喉まで出かかった言葉を、そのまま飲み込む。
「でも、もういいの」
みいなが、静かに言った。
「わたしも……好きかって言われたら……だったし」
大地は、少しだけ間を置いて頷いた。
「そっか」
それ以上、深掘りはしなかった。
その距離感が、逆にありがたかった。
大地は残りのパンケーキを平らげながら、ぽつっと言う。
「みいなはさ、ちゃんと考え始めてると思うよ」
「……そうかな」
「うん。流されっぱなしだったら、今日ここでそんな話、してないだろ」
みいなは、少しだけ口元を緩めた。
(……大地って、こういうとこなんだよな)
押さない。
決めつけない。
でも、ちゃんと見てる。
カフェのざわめきの中で、
みいなはカフェラテを一口飲みながら、静かに思った。
(……この人の前だと、ちゃんと呼吸できる)
「……今日……スーツさ、みいなが選んでくれたの正解だったと思う」
突然、大地が言う。
「……ほんと?」
「ああ。俺、自分じゃ分かんねぇし」
そう言って、照れ隠しみたいに頭を掻いた。
「だからさ」
少し間を置いて、続ける。
「当日も、隣いてくれたら助かる」
「……うん」
即答だった。
その返事をした瞬間、みいなは気づく。
迷いがなかった。
それが、今までと一番違うところだった。
そのとき、ふと壁の時計が目に入った。
(……もう2時間経つ)
大地といると、本当にあっという間だ。
「ね、スーツ、取りに行く?」
みいながそう言うと、大地ははっとして笑った。
「おお、そうだな」
ふたりは席を立つ。
レジで支払いを済ませるみいなの横で、大地がぴしっと姿勢を正した。
「ごちそうさまでしたっ」
そう言って、パンっと音を鳴らしながら手を合わせて深く頭を下げる。
「ちょっと……」
みいなが思わず笑うと、店員さんもくすっと小さく笑っていた。