ベッドの隣は、昨日と違う人
33話 楽しかった気持ち
仕立て上がったスーツを受け取ると、紙袋は思ったよりずっしりしていた。
肩にかけた瞬間、大地が少しだけ姿勢を正す。
「なんか……急に大人だな」
鏡越しに自分を見て、照れたように笑う。
「似合ってたもん。ちゃんと」
みいなが言うと、大地は短く「ありがと」とだけ返した。
それ以上は言わないところが、いかにも彼らしい。
店を出ると、夕方の光が少し傾き始めていた。
さっきまでの緊張が抜けたみたいに、二人とも自然に息を吐く。
「……で、どうする?」
大地が紙袋を持ち替えながら聞く。
みいなは少し考えてから、視線を街に向けた。
「まだ早いし……
お腹もいっぱいだし、軽く歩かない?」
「いいな、それ」
即答だった。
駅前の大通りを外れて、少し静かな道に入る。
ショーウィンドウを眺めたり、信号待ちで足を止めたり。
目的地があるわけじゃないのに、歩くテンポは不思議と合っていた。
「こういうの、久しぶりかも」
みいながぽつりと言う。
「何が?」
「何もしないで、ただ歩くの」
大地は一瞬考えてから、軽く頷いた。
「たしかに。
最近、用事があって会うことばっかだったもんな」
「うん」
それきり、しばらく言葉は途切れた。
でも、沈黙は気まずくない。
紙袋がすれる音と、靴音だけが並んで続く。
(なんか……こういうの、いいな)
みいなは胸の奥でそう思いながら、歩幅を少しだけ大地に合わせた。
「なぁ、なんだかんだ腹減らねぇ?」
大地が紙袋を持ち替えながら、何でもないみたいに言う。
「……確かに。もう晩ご飯の時間だね」
時計を見ると、思ったより時間が経っていた。
二時間なんて、あっという間だった。
「せっかくだし、軽く食べて今日は遅くならないうちに解散すっか」
「うん、そうだね。何食べる?」
特別な店じゃなくていい。
並んで歩きながら、自然に決まる行き先。
そういうところが、今日の延長みたいで心地よかった。
食事を終えて、駅へ向かう。
並んで歩く距離も、会話の間も、無理がない。
ホームに降りると、
行き先の違う表示を、それぞれ確認した。
「じゃあ、大地」
「美咲の二次会、よろしくお願いします」
「おお、もう来週だもんな」
「うん。詳しい時間とか場所は、またLINEする」
「了解」
少しだけ間が空く。
「……じゃ」
「うん」
先に視線を外したのは、どっちだったか。
気づけば、それぞれの立ち位置に戻っていた。
少し先で、
別々の方向から電車が入ってくる。
大地は立ち止まって、みいなを見る。
ドアが開き、乗り込む直前、ふっと振り返った。
目が合って、
みいなは思わず小さく手を振る。
大地も、少し照れたみたいに片手を上げた。
電車が動き出し、同じホームの向こうで、
大地の姿がゆっくり遠ざかっていく。
見えなくなる、その最後まで。
──はぁ……今日。
なんか、楽しかったな。
わたしの選んだスーツにしてくれて。
そのあとも、ずっと自然で。
ちゃんと話を聞いてくれて、
ちゃんと、わたしを見てくれてる感じがして。
……見てくれてる?
大地が、わたしを?
いやいや、友達として……だよね。
好きな子はいないって言ってたし。
そういう意味じゃ、ない。
なのに。
ズキッ……
胸の奥で、小さく、確かに。
なに、いまの。
なんで……ズキッて、したんだろう。
来週も……大地に会える。
二人で、ドレスアップして。
それを思い浮かべただけで、
胸の奥が、また少し騒ぐ。
期待してるみたいで、
浮かれてるみたいで、
でも、どこかで一歩引いてる自分もいて。
……友達、だよね。
何度も心の中で言い聞かせながら、
それでも、その言葉が少しだけ軽く感じてしまう。
心の中がズキっとしたり、ほわっとしたり。
理由はわからないまま。
みいなは、来週の予定を思い浮かべながら、
ゆっくり息を吐いた。
―――
レビュー、感想、ファン登録、いいね、しおり
よろしくお願いいたします☺️
仕立て上がったスーツを受け取ると、紙袋は思ったよりずっしりしていた。
肩にかけた瞬間、大地が少しだけ姿勢を正す。
「なんか……急に大人だな」
鏡越しに自分を見て、照れたように笑う。
「似合ってたもん。ちゃんと」
みいなが言うと、大地は短く「ありがと」とだけ返した。
それ以上は言わないところが、いかにも彼らしい。
店を出ると、夕方の光が少し傾き始めていた。
さっきまでの緊張が抜けたみたいに、二人とも自然に息を吐く。
「……で、どうする?」
大地が紙袋を持ち替えながら聞く。
みいなは少し考えてから、視線を街に向けた。
「まだ早いし……
お腹もいっぱいだし、軽く歩かない?」
「いいな、それ」
即答だった。
駅前の大通りを外れて、少し静かな道に入る。
ショーウィンドウを眺めたり、信号待ちで足を止めたり。
目的地があるわけじゃないのに、歩くテンポは不思議と合っていた。
「こういうの、久しぶりかも」
みいながぽつりと言う。
「何が?」
「何もしないで、ただ歩くの」
大地は一瞬考えてから、軽く頷いた。
「たしかに。
最近、用事があって会うことばっかだったもんな」
「うん」
それきり、しばらく言葉は途切れた。
でも、沈黙は気まずくない。
紙袋がすれる音と、靴音だけが並んで続く。
(なんか……こういうの、いいな)
みいなは胸の奥でそう思いながら、歩幅を少しだけ大地に合わせた。
「なぁ、なんだかんだ腹減らねぇ?」
大地が紙袋を持ち替えながら、何でもないみたいに言う。
「……確かに。もう晩ご飯の時間だね」
時計を見ると、思ったより時間が経っていた。
二時間なんて、あっという間だった。
「せっかくだし、軽く食べて今日は遅くならないうちに解散すっか」
「うん、そうだね。何食べる?」
特別な店じゃなくていい。
並んで歩きながら、自然に決まる行き先。
そういうところが、今日の延長みたいで心地よかった。
食事を終えて、駅へ向かう。
並んで歩く距離も、会話の間も、無理がない。
ホームに降りると、
行き先の違う表示を、それぞれ確認した。
「じゃあ、大地」
「美咲の二次会、よろしくお願いします」
「おお、もう来週だもんな」
「うん。詳しい時間とか場所は、またLINEする」
「了解」
少しだけ間が空く。
「……じゃ」
「うん」
先に視線を外したのは、どっちだったか。
気づけば、それぞれの立ち位置に戻っていた。
少し先で、
別々の方向から電車が入ってくる。
大地は立ち止まって、みいなを見る。
ドアが開き、乗り込む直前、ふっと振り返った。
目が合って、
みいなは思わず小さく手を振る。
大地も、少し照れたみたいに片手を上げた。
電車が動き出し、同じホームの向こうで、
大地の姿がゆっくり遠ざかっていく。
見えなくなる、その最後まで。
──はぁ……今日。
なんか、楽しかったな。
わたしの選んだスーツにしてくれて。
そのあとも、ずっと自然で。
ちゃんと話を聞いてくれて、
ちゃんと、わたしを見てくれてる感じがして。
……見てくれてる?
大地が、わたしを?
いやいや、友達として……だよね。
好きな子はいないって言ってたし。
そういう意味じゃ、ない。
なのに。
ズキッ……
胸の奥で、小さく、確かに。
なに、いまの。
なんで……ズキッて、したんだろう。
来週も……大地に会える。
二人で、ドレスアップして。
それを思い浮かべただけで、
胸の奥が、また少し騒ぐ。
期待してるみたいで、
浮かれてるみたいで、
でも、どこかで一歩引いてる自分もいて。
……友達、だよね。
何度も心の中で言い聞かせながら、
それでも、その言葉が少しだけ軽く感じてしまう。
心の中がズキっとしたり、ほわっとしたり。
理由はわからないまま。
みいなは、来週の予定を思い浮かべながら、
ゆっくり息を吐いた。
―――
レビュー、感想、ファン登録、いいね、しおり
よろしくお願いいたします☺️