ベッドの隣は、昨日と違う人
特別な日のはじまり
土曜日。
大地のうちに行く日。
約束は、大地の家の近くのイタリアン。
お昼を食べて、そのまま大地の家で、二人が前から観たかった映画を観る。
ただそれだけの予定だった。
一応、お泊まりの準備……してこ。
メイクポーチと、先週温泉に持って行った下着も。
バッグに入れながら、少しだけ手が止まる。
考えすぎだって分かってるのに、胸の奥が落ち着かない。
髪は、大地があの時可愛いって言ってくれた、くびれ巻。
おうち映画に合わせて、ラフに。
でも、ほんの少しだけ、女らしく。
出かける前、鏡を見た。
……うん。
いい感じ、かな。
待ち合わせ場所に着くと、大地が先にいて、笑顔で手を振った。
「大地、お待たせ」
「おう。今日もその髪……」
一瞬、言葉が途切れる。
「うん。大地が可愛いって言ってくれたやつ」
「俺、これ好き。可愛い」
短い言葉なのに、胸がじんわり熱くなる。
「……ありがと」
「じゃ、行こっか」
並んで歩き出す距離が、もう自然だった。
パスタとピザを食べながら、軽くワインも飲む。
窓から差し込む昼の光がやわらかくて、時間がゆっくり流れていく。
真昼間から、
なんだか特別な休日みたいだった。
お店自慢のティラミスは、箱で持ち帰ることにした。
「これ、映画見ながら?」
「うわー、いいね」
「うん。ここのティラミス、めっちゃうまくてさ」
箱を受け取りながら、大地が続ける。
「ゆっくり、みいなと食べたいと思って」
その言葉が、胸の奥に残った。
二人は手を繋いで、ゆっくりと家路についた。
歩く速さも、足並みも、揃っている。
「みいな、なんかいるもんある?」
「んー……お茶とか?」
「あー、そういうのは全部あるよ。
……なんか、食べたいお菓子とか」
「んーん。ティラミスあるし、十分だよ」
「そっか。じゃ、行こ」
その一言で、胸が少しだけ高鳴った。
カチャリ……
扉が開いた瞬間、ふわっと甘い匂いがした。
(……あ)
胸の奥が、条件反射みたいにゆるむ。
(この匂い……)
「……大地」
「ん?」
靴を脱ぎながら、みいなは小さく息を吸った。
「これ……あのアロマキャンドル?」
「お、わかった?」
少しだけ、声が弾む。
「出かける前にな。
帰ってきたら匂いするように」
「……やっぱり」
くすっと笑う。
「なんか……今日も温泉旅館にいるみたい……」
「だよな」
大地も、少しだけ間を置いて。
「もうこれ、思い出の匂いだよな」
「うん……」
みいなは小さく頷いた。
「これ、絶対思い出す……」
(多分、今日のことも……)
「あとで、部屋でちゃんと炊くか」
「……うん」
それだけで、
もう“今日は特別な日”だって、はっきりわかってしまった。
「じゃ、コーヒー淹れるから。
ソファでくつろいでて」
「ありがとう」
みいなはソファに腰を下ろした。
部屋に入った瞬間から、ほのかに残る香りが、まだ鼻の奥にある。
(……この匂い、本当……大好きになった)
「お待たせ」
コーヒーのカップを置いてから、大地はティラミスの箱を開けた。
「これな。皿、出すわ」
取り皿を二枚並べて、大きめのスプーンで丁寧にすくう。
崩れないように気をつけながら、それぞれの皿に分けた。
「はい」
「わぁ、ありがとう」
スプーンを手に取って、一口。
「……うわっ、美味しい」
思わず、声が落ちる。
「これ、ほんとに美味しい。
今までで一番かも」
「だろ」
大地は自分の皿を見て、満足そうに笑う。
「みいな、俺と味覚合うよな」
「うん、わたしも思ってた」
すぐに頷いてから、続ける。
「いちご大福もそうだしさ。
おばさんの煮物も、うちのと味似てた」
一瞬、大地の手が止まった。
「……そういうのって」
少し間を置いて。
「地味だけど、大事だよな」
「うん」
みいなは、もう一口ティラミスを運ぶ。
「美味しいものって、
一緒に美味しいって言える人と食べたい」
「……わかる」
短くそう返して、コーヒーを飲む。
皿の上のティラミスが、少しずつ減っていく。
静かな午後が、ゆっくり深まっていった。
「……よし」
大地が立ち上がった。
「映画、観るか」
「うん」
みいなは小さく息を吸って、背中をソファに預けた。
(……大丈夫)
この時間の延長線に、ちゃんと“今日”がある気がしていた。
土曜日。
大地のうちに行く日。
約束は、大地の家の近くのイタリアン。
お昼を食べて、そのまま大地の家で、二人が前から観たかった映画を観る。
ただそれだけの予定だった。
一応、お泊まりの準備……してこ。
メイクポーチと、先週温泉に持って行った下着も。
バッグに入れながら、少しだけ手が止まる。
考えすぎだって分かってるのに、胸の奥が落ち着かない。
髪は、大地があの時可愛いって言ってくれた、くびれ巻。
おうち映画に合わせて、ラフに。
でも、ほんの少しだけ、女らしく。
出かける前、鏡を見た。
……うん。
いい感じ、かな。
待ち合わせ場所に着くと、大地が先にいて、笑顔で手を振った。
「大地、お待たせ」
「おう。今日もその髪……」
一瞬、言葉が途切れる。
「うん。大地が可愛いって言ってくれたやつ」
「俺、これ好き。可愛い」
短い言葉なのに、胸がじんわり熱くなる。
「……ありがと」
「じゃ、行こっか」
並んで歩き出す距離が、もう自然だった。
パスタとピザを食べながら、軽くワインも飲む。
窓から差し込む昼の光がやわらかくて、時間がゆっくり流れていく。
真昼間から、
なんだか特別な休日みたいだった。
お店自慢のティラミスは、箱で持ち帰ることにした。
「これ、映画見ながら?」
「うわー、いいね」
「うん。ここのティラミス、めっちゃうまくてさ」
箱を受け取りながら、大地が続ける。
「ゆっくり、みいなと食べたいと思って」
その言葉が、胸の奥に残った。
二人は手を繋いで、ゆっくりと家路についた。
歩く速さも、足並みも、揃っている。
「みいな、なんかいるもんある?」
「んー……お茶とか?」
「あー、そういうのは全部あるよ。
……なんか、食べたいお菓子とか」
「んーん。ティラミスあるし、十分だよ」
「そっか。じゃ、行こ」
その一言で、胸が少しだけ高鳴った。
カチャリ……
扉が開いた瞬間、ふわっと甘い匂いがした。
(……あ)
胸の奥が、条件反射みたいにゆるむ。
(この匂い……)
「……大地」
「ん?」
靴を脱ぎながら、みいなは小さく息を吸った。
「これ……あのアロマキャンドル?」
「お、わかった?」
少しだけ、声が弾む。
「出かける前にな。
帰ってきたら匂いするように」
「……やっぱり」
くすっと笑う。
「なんか……今日も温泉旅館にいるみたい……」
「だよな」
大地も、少しだけ間を置いて。
「もうこれ、思い出の匂いだよな」
「うん……」
みいなは小さく頷いた。
「これ、絶対思い出す……」
(多分、今日のことも……)
「あとで、部屋でちゃんと炊くか」
「……うん」
それだけで、
もう“今日は特別な日”だって、はっきりわかってしまった。
「じゃ、コーヒー淹れるから。
ソファでくつろいでて」
「ありがとう」
みいなはソファに腰を下ろした。
部屋に入った瞬間から、ほのかに残る香りが、まだ鼻の奥にある。
(……この匂い、本当……大好きになった)
「お待たせ」
コーヒーのカップを置いてから、大地はティラミスの箱を開けた。
「これな。皿、出すわ」
取り皿を二枚並べて、大きめのスプーンで丁寧にすくう。
崩れないように気をつけながら、それぞれの皿に分けた。
「はい」
「わぁ、ありがとう」
スプーンを手に取って、一口。
「……うわっ、美味しい」
思わず、声が落ちる。
「これ、ほんとに美味しい。
今までで一番かも」
「だろ」
大地は自分の皿を見て、満足そうに笑う。
「みいな、俺と味覚合うよな」
「うん、わたしも思ってた」
すぐに頷いてから、続ける。
「いちご大福もそうだしさ。
おばさんの煮物も、うちのと味似てた」
一瞬、大地の手が止まった。
「……そういうのって」
少し間を置いて。
「地味だけど、大事だよな」
「うん」
みいなは、もう一口ティラミスを運ぶ。
「美味しいものって、
一緒に美味しいって言える人と食べたい」
「……わかる」
短くそう返して、コーヒーを飲む。
皿の上のティラミスが、少しずつ減っていく。
静かな午後が、ゆっくり深まっていった。
「……よし」
大地が立ち上がった。
「映画、観るか」
「うん」
みいなは小さく息を吸って、背中をソファに預けた。
(……大丈夫)
この時間の延長線に、ちゃんと“今日”がある気がしていた。