君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜

第一章 運命がずれた瞬間

 デートの待ち合わせ場所に向かう途中、晴菜(はるな)康介(こうすけ)から届いた短いメッセージを見て足を止めた。有楽町駅のホームで立ち尽くしたまま、スマホの画面をじっと見つめる。康介からのメッセージは、短く、そっけないものだった。

《ごめん、仕事入った。また今度でもいい?》

 その一文を何度か読み返し、晴菜は小さく息を吐いた。胸の奥に、ちりちりと小さな苛立ちが泡のように浮かんでくる。康介の言う『仕事』が何を指すのか、晴菜にはもう聞かなくても分かっていた。きっとまた、ライブのリハーサルか、仲間との打ち合わせだ。音楽を理由にしたドタキャンは、この二年間で数えきれないほど経験している。

「……また今度、ね」

 晴菜は小さくつぶやき、唇の端に自嘲気味な笑みを浮かべた。
 前回も聞いた『今度』。それが『今日』だったはずなのに――
 悲しさや怒りよりも、虚しさが胸を満たしていく。次々と電車が滑り込んでくるホームの雑踏を背に、晴菜はスマホをショルダーバッグに押し込み、立ち尽くした。
 約束していたデートは、康介のバンドの活動にいつも後回しだった。彼の夢を応援したい気持ちは本物だった。けれど、こうやって何度も置き去りにされるたび、心のどこかで何かが擦り切れていくのを感じていた。
 ざぁっと強い風が頬を打つ。乗る予定だった電車が目の前に滑り込んでくるが、康介にドタキャンされた今、その必要もない。晴菜はふっと視線を落とし、人の波に逆らうように踵を返した。
 改札でICカードをかざすと、晴菜の心とは裏腹に軽快な音が鳴った。大きくため息を吐いて天を仰ぐと、初夏の澄んだ高い空が視界に映り込む。

 ――せっかく……新しいヒール、おろしたのに。
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