君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
 先週、『BARギャレットの開店五周年のボーナス』だ、と、店長の松本(まつもと)から手渡された寸志。それを持って胸を躍らせながら新しいヒールを買いに行っていた昨日の自分が道化のように思え、晴菜はまたひとつ大きなため息を吐いた。

「……」

 まっすぐ帰る気にもなれず、晴菜はふらりと足を動かした。特に目的もなく、晴菜は歩き慣れた銀座の街中をゆっくりと彷徨い始めた。

「今日、別に休み取らなくてもよかったな……」

 勤め始めて四年になるBARギャレットは、店長と晴菜、それから昨年の冬に入ってきた後輩の山口(やまぐち)今井(いまい)の四人で回している。康介から今日なら行けそうと連絡を受け、急遽シフトを調整してもらって休みを取ったのに。
 靄つく感情を持て余しながら、晴菜はふらふらと歩みを進める。ふと顔を上げると、見慣れた緑のロゴが入ったカップを手にしたスーツ姿の男性とすれ違った。正面のガラス越しに店内を覗くと、どのテーブルにもノートパソコンや本、会話に没頭する人々の姿が見える。

 ――ここなら、少し落ち着けるかも。

 自動ドアが開くと、濃厚なコーヒーの香りとポップなBGMが晴菜を迎えた。カウンターには若いバリスタたちがテキパキと動き、ショーケースには色とりどりのペストリーが並んでいる。
 晴菜は「アイスラテ、グランデで」と注文し、受け取りカウンターで店内用のプラスチックカップを受け取る。窓際の席に腰を下ろすと、外の陽射しがテーブルの上をやわらかく照らす。
 汗をかいたグラスのストローに手を伸ばし、中身をくるりと攪拌する。カフェラテのミルクが溶け、淡いベージュ色に濁り始めた。その柔らかな色と反比例するように、自分の心も重く淀んでいく気がした。

 ――付き合って、二年になるのに。そんなにデートに行ったこと、ないなぁ……
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