君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
 迷った末に、晴菜は正直に答えた。隠すことでもない。それに、この精悍な男性の視線から逃れるのは、なぜだか難しい気がした。
 彼は面白そうに、片方の口角を上げた。

「なるほど。現役か」

 グラスを回しながら、彼はゆっくりと息を吐いた。

「……それで、そのシングルモルトを選んだ理由は?」
「理由?」
「現役バーメイドは、どんな理由で酒を選ぶのか気になった」

 女性のバーテンダーは、正確にはバーメイドと言う。それを知っているのは業界に詳しい人間だ。晴菜は少しだけ警戒心を解き、彼を観察しながら言葉を探す。

「……ふふ、そんなふうに聞かれたの初めて」
「職業病でね。俺も酒を扱う仕事なんだ」
「へえ。じゃあ同業者ってことですね」

 晴菜はグラスを指先で軽く触りながら、探るように言葉を落とす。
 バーテンダーは観察眼が命だ。客のわずかな視線の動き、指先の癖、呼吸の速さ。それらを汲み取ったうえで最高の酒と空間を提供する。
 彼も晴菜と同じくバーテンダーなのかもしれない。けれど、どこか違和感があった。彼が身に纏う空気は、バーの現場で磨かれたモノではないような気がしたからだ。

「バーテンダーではないけど、まぁ、酒とは長いつきあいだ」
「その言い方、なんだか含みがありますね」
「そうか?」

 彼は微かに笑って、グラスの縁に唇を寄せた。丸みを帯びた氷がカランと小さく鳴る。

「ソムリエ……とか?」

 思考を巡らせながら、晴菜はまたひとつ問いを落とす。洗練されたいでたちと所作は、高級ホテルのレストランに勤めていると言われてもおかしくはなかったからだ。
< 12 / 96 >

この作品をシェア

pagetop