君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜

第五章 その先へ

 京都の路地奥にあるその料理屋は、看板すら控えめだった。老舗の特有の来訪者を選ぶような佇まいは、昼下がりにもかかわらず夜のような静けさを保っていた。
 案内された畳敷きの個室には、品の良い高座椅子と深みのある光沢を湛えた漆塗りの膳卓が設えられていた。正面に庭園が望め、床の間には編み目の涼やかな竹籠に桔梗と青紅葉が活けられている。濃紫の花弁には、一粒の雫が宝石のように輝いていた。

「緊張してるか」

 いつもよりぴしりとしたスーツを身に纏う奏汰に小さく問われる。晴菜は咄嗟に首を横に振ろうとしたが、ふっと息を吐いて肯定する。

「してる。……隠せてない?」
「隠す必要ねぇよ。俺が隣にいる」

 奏汰は低く囁くと、晴菜の冷えた手を迷いなく包み込んだ。大きな掌の熱が伝わり、指先が絡め取られる。

「余計な雑音は全部俺が叩き潰してやる。心配すんな」
「……うん」

 力強い一言に、晴菜はゆっくりと息を整える。ほっと落ち着くようない草の匂いが、妙に現実感を伴って鼻腔をくすぐった。
 奏汰と晴菜は下座側に並んで腰を下ろした。仲居がおしぼりとお冷を持って入室してくると同時に、庭園の鹿威しが、カランと乾いた音を立てる。
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