【完】君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
 名指しされた隆之は、即座に応じなかった。麗奈の視線が一瞬、奏汰と晴菜のほうへ流れる。その意図を察し、晴菜は背筋をさらに正した。取り留めのない話の体裁を取りながらも、そこには彼女の意図が過不足なく含まれていた。
 隆之は箸を取りながら淡々と口を開く。

「ええ。伝統は守るだけでは続かない。今の市場に届く形に繋げていく必要がある。……感情論を抜きにすれば、今回のお話、悪い縁談ではない。そう考え始めてはいます」

 淡々とした彼の口調には、抑揚が感じられない。やはり、隆之は数字と合理性でこの話を測ろうとしている。分かっていたはずなのに、胸の奥がひどく痛んだ。
 隆之の言葉が座敷に落ちた瞬間、奏汰は静かに声を上げた。

「時東グループの方々から評価されるのは光栄ですが、氷室の酒は『土地と人』の積み重ねです。もちろん、高坂の酒も。数字だけで動かせるものではありません」

 冷静で、平坦な声色だった。けれど、その言葉には明確な拒絶が含まれていた。
 麗奈は微笑みを崩さず、酢の物をゆっくりと口に運んでいく。

「外からの『橋』が必要な場面も、あるでしょう?」
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