【完】君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
「私は奏汰を人として尊敬しています。でも、それと婚姻は別です。家の駒になる気はありません」
「駒ではありません。あなたは時東の娘としての役割を果たすだけ」
「役割を果たすことと、自分の人生を選ぶことは両立できます」

 母娘の間で見えない火花が散る。穂乃果の声は穏やかだが、一歩も退かない。稔が小さく息を吐き、厳しい表情で隆之を見つめた。

「高坂としては、婚姻を条件にする時点で慎重にならざるを得ない。事業提携と家の問題は切り分けるべきだ。隆之はどうだ」
「……現実として、資金と販路は魅力ですね。氷室単独で海外を攻めるには時間がかかりすぎますから。……しかし」

 隆之の言葉が濁り、沈黙が落ちていく。
 話せば話すほど、線は交わらずに伸びていく。合理と誇り、家と人生。どれも正しくて、どれも譲れない。
 晴菜は、喉の奥がカラカラに乾くのを感じた。ここにあるのは選択ではなく、衝突なのだ。
 静かな応酬の中、奏汰がゆっくりと言葉を落とした。

「麗奈さん。つかぬことをお伺いしますが」
「何かしら」

 麗奈は余裕を取り戻したように、優雅に小首を傾げた。

「三年前、時東が資本参加した北陸の高級旅館。今、どうなったかご存じで?」

 奏汰の口から静かに言葉が放たれた瞬間。麗奈の貼り付けた笑みが、ガラスにヒビが入るように――一瞬だけ、確かに固まった。
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