【完】君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
 奏汰はスーツの胸ポケットから一通の書類を取り出し、漆塗りの膳卓に滑らせた。隆之と麗奈の視線が、その書類にふっと落ちる。

「改装初年度は売上が前年比一六二%。客単価は四万八千円から七万八千円へ跳ね上がった。メディア露出も増え、成功事例として扱われました」

 奏汰の声には、温度が全く感じられない。事務的な、それでいて鋭利な響きが、この場の空気を切り裂いていく。

「ですが、二年目。資本参加からわずか二年で、創業時から支えてきた料理長が退任。こだわり抜いていた地元食材の仕入れ先も、コストカットの余波を受けて三割が契約解除。結果、一時的に客単価は二割上がりましたが、リピーター率は四割減。昨期、ついに減損処理に追い込まれました」

 晴菜は息を呑んだ。彼が用意していた武器の重みに、晴菜の手のひらにじっとりと汗が滲む。
 奏汰は感情を交えず、資料を読み上げるように続けた。

「ブランドを磨く名目で内装を派手に刷新し、宿泊料を倍近くに引き上げた。確かに宿泊する富裕層は増えました。しかし、長年愛してくれた常連は去り、地域との絆も断たれた。後に残ったのは膨れ上がった固定費と、物語を失った空虚さだけだ」
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