【完】君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
 晴菜のその言葉に、隆之が鷹揚に頷いた。その表情は、あのお見合いの時のような、穏やかなそれに戻っていた。

「よし、この話はこれでおしまいだ。これ以上難しい顔をしていても、せっかくの料理が泣くというものだ。稔さん、今年の大吟醸の具合はどう予想している?」
「今年は梅雨が短かっただろう。発酵管理は神経を使ったが、その分、香りの立ち上がりは例年より華やかになりそうだ。酵母の働きも安定している」
「ほう、それは楽しみだな」

 隆之の顔がぱっと明るくなる。さきほどまでの重圧が嘘のように、ただの酒好きの顔だ。
 稔と隆之の会話に、穂乃果がくすりと声を立てて笑った。

「ふふ、家族会議の締めくくりが結局お酒の話になるなんて」

 カタン、と庭の鹿威しが軽やかな音を立てる。先ほどまでの息苦しい圧迫感は、もうどこにもない。
 座敷には寄り添い合う家族の、穏やかな温もりが満ちていた。
 ふと、晴菜は隣からの静かな視線を感じて顔を上げた。視線が絡まった彼の瞳には、ただ静かな熱だけが宿っている。
 奏汰が、ほんの少しだけ口角を上げ、晴菜にだけ分かるような優しい眼差しを向けた。
 晴菜もまた――万感の思いを込めて、彼を見つめ返した。
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