【完】君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
 四月の柔らかな陽光が、産婦人科の待合室に穏やかな影を落としていた。日本酒造りは、冬の厳しい寒さを利用する寒造(かんづく)りが伝統的なため、多くの酒蔵は米の収穫に合わせたサイクルで動いている。氷室酒造も例にもれず、最も多忙な冬を越し、先日無事に蔵開きを終えた。
 窓の外では、季節を華やかに彩っていた桜が風に舞い、若葉の瑞々しい緑が顔をのぞかせている。その鮮やかな色彩は、新しい生命の息吹を祝福しているかのようだった。

「気分、悪くないか?」

 隣に座る奏汰がスーツの上着を脱ぎ、晴菜の膝にそれをかけていく。蔵開きを終えたため、これからは甑倒(こしきだお)し――米を蒸す道具を片付ける、蔵人にとっての仕事納めのお祝いが控えている。副社長としての仕事は山積みなはずなのに、今日の妊婦健診は絶対についてくると言い張った。

「大丈夫。奏汰こそ、本当に仕事休んでよかったの? 午後に会議あったでしょ」

 晴菜が小声で尋ねると、奏汰は晴菜の手をそっと握った。

「会議は議事録でカバーするから心配ない。それより大事なものがある。今日は初めての健診なんだからな」
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