【完】君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
 他愛ない会話を交わしつつ近況報告に花を咲かせていると、ふと会話が途切れた拍子に、華子が「今日のお見合いのことやけどね」と切り出した。

「相手さんの手前もあるし、一応振袖着てもろうけど、ほんまに気楽でええのんよ。彼、しっかりしたええ人やから」
「……そう、なんだね」

『いい男』という言葉に、晴菜はかすかな痛みを覚えた。

 ――いい男なんて言葉、もう信じられないもの。

 康介も、周囲からはそう言われていた。優しくて、誠実、夢に向かってひたむきな『いい男』だ、と。そんな彼から裏切られた晴菜は、もうその言葉に期待など一つもできない気がしていた。
 誰かと会えば、少しは気持ちも前向きになるだろうと思っていた。素性のわからない男と寝るよりはよっぽど健全だ、とも。けれど、二週間経った今も心の奥の痛みは鈍く残ったまま。朝になれば薄れるかと思っていたのに、夜になるたび気分が沈む。康介とのこと、それから名前も知らない男に抱かれたこと。忘れたいのに、忘れられない。前を向こうとするほど、足元が重く沈んでいく。

 ――ご縁がなかった、で終われるなら……それでいい……。

 こんな心境で新しい誰かと会って何を話せばいいのだろうか。心はまだ、あの日から崩れたままで動けないでいるというのに。
 人を好きになることも、信じることも、少し怖い。傷つかないように身構える自分が、情けないほど染み付いている。
 晴菜はグラスの水滴を指でなぞりながら、心の奥に沈殿した虚無感をどうすることもできずにいた。新しい出会いどころか、笑うことさえまだうまくできそうにない。
 
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