君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
「だから、完全に終わったと聞いたから兄が彼女との縁談を進めたと言っている。俺は、穂乃果との縁談を受ける気はない。そもそも、最初からそんな気はなかった」

 奏汰の声に、これまで以上の鋭い響きが混じる。力強く言葉を返す奏汰を見おろす麗奈は、扇子を持つ手に力を込めた。

「あなた一人の問題じゃないの。時東家は今でも、歴史ある氷室酒造との強固な繋がりを望んでいる。わたくしは高坂の血を引くものとして、氷室と時東の橋渡し役を任されているの。その意味、聡明なあなたなら分かっているでしょう? これは個人ではなく、家と家の判断なのよ」

 家と家の判断――その言葉が、晴菜の胸に鈍い痛みを連れてくる。人と人の間にあるはずの温度が、数字に置き換えられていく音がする。
 奏汰はぐっと拳を握り、短く息を吐いていく。

「稔とあなたが今取り組んでいる限定酒の企画だって、国内最大手の旅行社である時東の資本と集客力が入れば、それこそ世界中に販路が広がるわ。それはあなたも分かっているでしょう?」
「……卑怯ですよ、それは」

 奏汰の声は、低く、地を這うような響きを含んでいた。麗奈の指摘は、氷室家と高坂家の未来、そして奏汰が心血を注いできた『仕事』の根幹に手をかけるものだった。

「卑怯? いいえ、わたくしは最適解を提示しているだけ。あなたが穂乃果を選べば、氷室と高坂の酒は世界へ羽ばたく。けれど、あなたが()()()を優先するならば、話は別です」
「っ……」
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