君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
 息を詰めたのは、晴菜だったのか、奏汰だったのか。『火遊び』というたった数文字の言葉が、晴菜の胸の奥で鈍く弾けた。あまりの惨めさに、視界がじわりと滲んでいく。

「奏汰。あなたの隣に立つのは、同じ土俵に立てる家の娘だけ。酒を『並べるだけ』の家の人間では務まりませんの」

 その瞬間、晴菜の中で何かが音を立てて崩れた。反論の言葉さえ浮かばない。事実として、麗奈の言葉は間違っていない。家柄、資本、政治的価値――どれを取っても、自分は場違いだ。
 晴菜は唇を噛み、視線を落とした。否定も肯定もできず、ただ黙り込むしかなかった。

「あら、否定もできないの?」

 晴菜の沈黙を麗奈は鼻で笑い、手に持った扇子を軽く叩いた。そうして、麗奈は興味を失ったように視線を外していく。その仕草は、まるで晴菜を視界に映す価値すらないとでもいうようだった。
 彼女の様子を見遣った奏汰が、ぎりっと奥歯を噛みしめた音が響いた。

「彼女は東京でバーテンダーをしている。酒には誰よりも詳しい上、市場の感覚も鋭い。俺の片腕といっても過言じゃない」
「まぁ、夜職の女性だったの。伝統ある蔵を背負う彼の隣に立つには、それ相応の器というものがあるの。カウンター越しに媚を売り、ただお酒を注ぐだけの女性が、氷室に何をもたらすと仰るの?」

 そう言い切られた瞬間、晴菜の胸の奥で何かがひび割れる音がした。麗奈の視線は、優位を確信したように鋭く光る。

「麗奈さん、言い過ぎだ!」

 奏汰の鋭い叱咤が飛ぶ。けれど、晴菜の唇は震え、言葉が何ひとつ出てこなかった。
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