君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜

第四章 夜が終わる前に

 高層ビルの谷間を、奏汰は足早に歩いていた。この二週間、毎日分刻みで詰め込んでいた都内での営業回りは今日で全て終了し、明日には京都に戻る。
 最後のアポを取っていた卸先を回り終えたころには、空はすでに夜の帳に包まれていた。日中よりも気温が落ちたとはいえ、革靴にはアスファルトが日中に蓄えた熱が伝わってくる。

 ――思ったよりも時間を食っちまったな。

 奏汰は腕時計に視線を落とし、重いため息を吐き出した。当初の予定では、営業回りを終えたらその足ですぐに晴菜のマンションへ向かうつもりだった。だが、この時間では彼女はもう勤務先のバーへと出勤してしまっているだろう。

 ――晴菜……少しは前を向けただろうか。

 昨日の高坂醸造での出来事を思い出すだけで、胸の奥にざらついた不快な感触が広がる。
 江戸時代から続く氷室酒造に生まれ育った奏汰の幼少期の記憶といえば、兄と一緒に厳格な父から代々の酒造りの失敗談を叩き込まれたことしか覚えていない。誰がどの年に天候を読み違え、どの判断が蔵にどれほどの損害を与えたか。同年代の子供が経験するはずの手遊びや旅行の記憶など、あるはずもない。
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