君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
『回っている最中に悪いな。少し時間はあるか』

 電話口から聞こえる兄――隆之の声は、驚くほど平坦だった。事務所のデスクで、数字と契約書の山に囲まれているときの声だ。

「営業は全て終わった。これからホテルに戻って荷造りするところだ」

 奏汰の端的な言葉に、隆之は『そうか』と短く返し、一切の前置きもなく言葉を続けた。

『麗奈さんから連絡があった。穂乃果さんとの縁談を、再び検討してほしいと』

 目の前を通り過ぎるタクシーの騒音が、一瞬遠のいた気がした。晴菜の、あの少しだけ淋しそうに微笑む横顔が脳裏を過ぎり、奏汰は痛むほどに奥歯を噛み締める。
 隆之のこの落ち着き払った雰囲気。恐らく昨日、奏汰と晴菜が帰った後すぐに、麗奈から隆之へ根回しが入っていたのだろう。なんともまぁ手が早いことだ。

「……正気か、兄貴。福寿さんへの面子はどうなる」

 思わず鋭くなった声に、隆之は一瞬の沈黙を挟んだ。その沈黙が、さらに奏汰の神経を逆撫でしていく。

「……兄貴!」
『晴菜さんとの縁談を軽んじるつもりはない。だが、現実的に見て時東家との接点はそれ以上の価値を持つ。それに、時東の会長からも連絡があった。もう一度考え直す余地はないかと思ってな』

 奏汰は低く、拒絶の意思をこれ以上なく込めた声で返す。
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