ガラスの告白
 その日は、身体を洗う化粧石鹸が残り少ないことを思い出し、お風呂場に足を向けたのですが、何やら小声で話し続ける声がしているのでした。

 会話とは違い、一方的な男の語り声にも聞こえました。
 何か不審に思い耳を傾けながらガラス扉を開けると、男は時男の身体に口を付けながら、興奮するように吐息が漏れていたのでした。
 その場では我を忘れ時男を奪い返しましたが、後から知る話に虫唾が走りました。

 普段から母親の目の届かないところで、何も知らない時男の身体を舐め回したり、時には自らの淫部を押し付けることもあったそうです。
 母親は拒絶しました。
 そんな男の存在が怖くなると、親戚の伝手を頼りに二人は、長野県に逃れてきたのでした。

 突然すぎる移住に、わずかな貯金しかない二人の暮らしは、ロウソクの火を点すような生活でした。
 時男も中学校の頃からアルバイトをし、わずかながらの賃金を家庭の足しにしています。
 先ほどの時男の気遣いも、それらの表れでもあります。

 貧乏と過去の生い立ちさえあるものの、現在は二人にとって幸せな暮らしではありました。
 身を隠すように住む長野のこの町は、人里離れた人口の少ない小さな町です。
 暮らす人々が顔見知りのため、小さな噂はすぐに広まる危険もあります。

 何処の誰々が何をしただのと噂を聞くたび、二人は不安を覚えます。
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